若林徳之統括課長に話を聞いた

【主要メーカーに聞くワイヤレススピーカーの次世代サウンド・1】コロナ禍後に下落傾向だったワイヤレススピーカー市場は下げ止まりが見えつつあります。スマホやイヤホンで足りている若い世代が多い一方、「空間そのものを音で満たす」という体験価値が改めて評価され始めています。ソニーは物理ボタンで低音を2段階強化できる「ULT」シリーズを軸に、中高域とのバランスが取れた聴き疲れしにくい音を訴求。さらに中大型モデルでダンスやイベントなどのシーン開拓や、家と外をシームレスにつなぐ音を飛ばす連携にも取り組みます。市場の現在地とこれからを、ソニーマーケティングの若林徳之氏に話を聞きました。(BCN・佐相 彰彦)

新たな伸びしろは「場づくり」

(以下、敬称略) コロナ禍以降の下落傾向は下げ止まりつつあり、極端な二極化は起きていません。販売台数の主軸は個人向けの1万円前後ですが、ダンスサークルや企業イベントなどで使える3万円超の中大型モデルにもポテンシャルを感じています。日本では家の中での利用が圧倒的に多く、キッチンや浴室などの水回りでのニーズが根強いため、防水性も重視されています。若年層は「スマホで十分」と考える方も多いですが、「空間で鳴らす良さ」の体験機会をどう作るかがカギだと捉えています。

2024年に立ち上げた「ULT(アルトパワーサウンド)」が一つのカギを握っていると考えています。ULTは専用ボタン「ULTボタン」を押すことで、圧倒的な迫力ある重低音を体感できます。ここで重要なのは、低音だけを誇張するのではなく、ボーカルなどの中高域の美しさとのバランスを保っていることです。いわば「パワフルなのに聴き疲れしにくい」音を目指しています。価格帯は市場の主軸となる1万円前後のモデルから3万円超の中大型モデルまでをそろえ、個人の自室からイベント現場まで幅広いニーズをカバーしています。

出力(パワー)が求められるダンスサークルや企業イベントといった「場の盛り上げ」には、中大型モデルならではの圧倒的な音圧と広がりが不可欠です。ULTボタンで好みに応じて低音をブーストしつつ、中高域の明瞭さも損なわない、そうした空間で鳴らす価値を最大化できるのが中大型モデルと判断しています。

家のスピーカーで聴いていた音楽を、外出時にそのままヘッドホン側へ切り替える、あるいは外で聴いていた曲を帰宅と同時にスピーカーへ飛ばすといったデバイス横断の連携です。当社のヘッドホンである「LinkBudsシリーズ」の思想を継ぐスピーカーモデルとして、場所やデバイスが変わっても音楽が途切れないことを重視しています。メインストリーム機能というより、音にこだわりのあるユーザーに支持される特徴的な価値だと捉えています。

スピーカーは基本的に“レシーバー”だと考えています。AIがPCやスマホ領域で広く活用されているのは事実ですが、スピーカー体験を劇的に変える決め手になるかは現時点で不透明と捉えています。それよりも、ULTボタンを押した瞬間に低音が変わるといった直感的で手応えのある価値を優先しています。通信技術の進化に関しては注視していますが、過度なAI頼みはしないというのが現状のスタンスです。

30~50代です。この世代は「ミニコンポ世代」といわれていて、かつて自宅でスピーカーから出る迫力ある音を体感し、その感動を知っている層です。この世代に最も効果的な訴求ポイントは、「ヘッドホンでは味わえない、空間で音を鳴らす体験価値」の再発見にあります。すでにスピーカーで音を鳴らす良さを理解しているため、「今のソニーの音は、かつての感動をさらに進化させている」というアプローチができます。

体験の場が必要と判断しています。家電量販店やイベントで実際に音を聴いてもらう機会を増やすほか、ダンスやヒップホップなど、特定コミュニティーのインフルエンサーに訴求する取り組みも効果的だと考えています。著名アーティストのプロモーションも有効ですが、インフルエンサーに「空間で聴く良さ」を言語化してもらい、地道に広げていきます。

防水・防塵やバッテリーの長時間化といった実用性の磨き込みは継続します。音質面では低音の迫力と中高域の美しさの両立を突き詰め、適材適所の素材・設計で進化させていきます。市場を一変させる魔法の技術を待つのではなく、アーティストとの取り組みや店頭・イベントでの体験機会の拡大など、地道な普及活動を重視します。目の前の生活空間を、より良い音で豊かにする。そこに、当社のスピーカーの存在意義があると考えています。