モバイルバッテリーの捨て方、間違えると危ない!身近で起きた火災事故と正しい処分方法

使い古したモバイルバッテリーやワイヤレスイヤホン、ハンディファンなど家に眠っていませんか?実はこれらに内蔵されたリチウムイオン電池、捨て方を間違えるとゴミ収集車やゴミ処理場で火災を招く危険があるんです。 今回は、実際に起きた事故の例や自治体ごとの処分ルール、そして行政からの注意喚起や海外の先進的な取り組みをご紹介します。「自分には関係ない」と思わずに、ぜひ最後まで読んでみてください。

ゴミ収集車でモバイルバッテリーが発火した事例

まずはゴミ収集車で起きた事故の実例です。2025年7月1日、神奈川県綾瀬市で家庭ごみを収集していた車両から煙が上がり、モバイルバッテリーが原因の火災が発生しました。可燃ごみに混入していたバッテリーが圧縮されて発熱・発火したとみられています。幸いこのときは収集員がすぐに119番通報し、備え付けの消火器で初期消火して大事に至りませんでした。しかし一歩間違えば大惨事です。製品評価技術基盤機構(NITE)の調査では、こうした「ごみ捨て火災」による被害額は全国で4年間に約111億円にも上ると報告されています。収集車の火災は乗務員の危険だけでなく、周囲への延焼にもつながりかねません。

ゴミ集積所・処理施設でのバッテリー火災の例

家庭ごみを出す集積所やその先の処理施設でも、リチウムイオン電池の混入による火災が相次いでいます。例えば2023年4月10日、埼玉県さいたま市桜区の桜環境センター内リサイクル施設で、不燃ごみに混ざっていた充電式のリチウムイオン電池が破砕機で潰され出火しました。消火に約5時間を要し、選別機やコンベヤーが焼けて修理に約3000万円もの費用がかかっています。施設が完全復旧するまでごみ処理が滞り、市は改めて「電池は絶対に家庭ごみに出さないで」と呼びかけました。

実際に、2024年12月には茨城県守谷市のごみ処理場でもモバイルバッテリーが原因とみられる火災が発生し、施設が壊滅的な被害を受けました。この火災では処理ラインが停止し、2025年11月現在も復旧のめどが立たないため、守谷市は近隣自治体に有料でごみ処理を委託している状況です。写真は火災発生後の処理施設の様子ですが、設備が焼けただれ、処理しきれないごみの山が積み上がってしまっています。小さな電池一つが、このように地域の生活インフラを長期間マヒさせるほど重大な影響を及ぼすこともあるのです。

東京23区ではどう捨てる?充電式イヤホン・ハンディファンの処分方法

では、私たちの身近な充電式ガジェットはどう処分すれば良いのでしょうか。例えば、東京23区内でも自治体によって扱いはさまざまですが、共通して言えるのは「燃えるごみ・燃えないごみに”そのまま”混ぜて捨ててはいけない」ということです。リチウムイオン電池を含む製品は小型家電リサイクルの対象になっており、多くの区では専用の回収ボックスを設置して回収しています。新宿区では区役所や出張所などに専用ボックスがあり、使わなくなったワイヤレスイヤホンやハンディファンも投入すれば金属資源としてリサイクルしてもらえます。

一方で、「家庭ごみとして出せるかどうか」は区によってルールが異なります。新宿区は2025年4月からルールを変更し、ワイヤレスイヤホンなどの小型充電池を家庭ごみとして回収可能にしました。具体的には、製品から電池を取り外せれば電池をテープで絶縁処理して週1回の資源ごみの日に出し、取り外せない場合は本体ごと月2回の「金属・陶器・ガラスごみ」の日に「電池・バッテリー」に分類して出す方法です。

このように自治体側で回収してくれるところも増えていますが、まだ対応が追いついていない区もあります。港区では、直接回収せず販売店等への持ち込みを呼びかける状況でした。区では協力店が少ない現状を踏まえ、2025年9月からついに月2回の不燃ごみ収集日に充電式電池を回収する取り組みを始めました。自治体によって分別方法や回収場所が異なるので、イヤホンやハンディファンを処分するときは各自治体の最新ルールを確認するようにしましょう。

モバイルバッテリーはどう捨てる?行政からの注意喚起

モバイルバッテリー本体やそれに類する充電池内蔵製品の廃棄について、国や自治体も繰り返し注意喚起を行っています。NITEは「充電式電池は正しく捨てましょう」と題したプレスリリースで、火災事故の多発に警鐘を鳴らしました。リチウム電池使用製品は絶対に普通のごみとして出さず、自治体の分別指示に従って回収ルートに出すこと、リサイクルマーク付きの電池は協力店や自治体拠点で引き取ってもらえること、使い切ってから廃棄すること──といった具体的な処分の心得も示されています。

自治体レベルでも「収集車や処理施設で火災が増えているので電池は危険ごみへ」「回収ボックスや販売店のリサイクルを利用して」といった呼びかけが各地で行われています。

さらに、国としても制度面の対策に乗り出しました。政府は2025年8月12日、発火事故が相次ぐモバイルバッテリーやスマートフォンについてメーカー側による回収・リサイクルの義務化方針を決定。これはリチウム電池が入った機器をメーカー自ら回収する仕組みを強化するもので、消費者が適切に廃棄できる環境を整える狙いがあります。私たちも「捨てちゃダメ」と言われたとき困らないように、地域の回収方法や協力店について日頃から調べておきましょう。

正しい捨て方を知りたくてもわかりづらい現状の課題…

ただ、充電式電池の捨て方を知っておきましょうと提言しましたが、とてもわかりづらいのも現状です。

たとえば、前述の新宿区の“小型充電式電池の排出方法について”のページでは、取り外せる小型充電式電池は「絶縁し中身の見えるポリ袋に小型充電式電池のみを入れる」と書いてあり、「イヤホンなどのように取り外せない時は『金属・陶器・ガラスごみ』の日に出す」とありますが「どのようにして出すか?」が明記されていません。

また江東区の「リチウムイオン電池(充電式電池)等の出し方について」では、「膨張した電池・モバイルバッテリーは単体で袋に入れ、「膨張電池」と表示して、燃やさないごみの日にお出しください」とありますが、「膨張していないモバイルバッテリーも同様に捨てるのか?」「膨張しているものだけのことなのか」がわかりづらく、モバイルバッテリーをどのように捨てていいのかがとてもわかりづらい状況です。家電量販店でも回収している店舗がありますが、取り外せる充電式電池のみの場合などもあります。

海外ではどうしてる?進むバッテリーリサイクル最前線

日本だけでなく世界的に見ても、使用済みバッテリーの安全な処分とリサイクルは大きな課題となっています。他の国々ではどのような取り組みが進んでいるのでしょうか。いくつか例を挙げてみます。

EU(ヨーロッパ)の場合

EUはバッテリーの包括的な新規制を打ち出し、メーカーに使用済み電池の高い回収率目標を課しています(ポータブル電池で2027年末までに63%、2030年末までに73%を回収)。さらに2027年までにスマホなど機器に組み込まれた電池を消費者自ら容易に取り外し交換できる設計にすることも義務づけました。使い捨てを減らしリサイクルを徹底するため、製品ライフサイクル全体に踏み込んだルールを整備しています。

アメリカの場合

米国では州ごとに電池の廃棄規制がありますが、一般に充電式電池を家庭ごみとして捨てることを法律で禁止している州が多く存在します。1996年制定の「電池法(Battery Act)」以降、ニッケル・カドミウム電池や小型鉛電池などは埋立処分が禁止され、メーカーがリサイクル計画を用意しないと販売すらできません。そのため電器店やホームセンターにはメーカー・業界団体が運営する無料回収箱(Call2Recycleなど)が設置され、消費者は使い終わった充電池を簡単にリサイクルに出せる仕組みが普及しています。

韓国の場合

韓国でもリチウムイオン電池のリサイクル体制整備が国家的な重点施策です。特に電気自動車の普及で今後大量の使用済み電池が出ると予測されるため、政府は2023年に使用済み電池産業の育成策を発表し、法制度やインフラ構築を進めています。電池の製造から回収・再資源化まで全サイクルを管理する新法の制定や、EUの電池規則に対応した再生資源利用の認証制度導入など、先進的な政策が盛り込まれています。

【参考文献】

・「ごみ捨て火災」、被害は100億円超え!~充電式電池は正しく捨てましょう~ | 製品安全 | 製品評価技術基盤機構

https://www.nite.go.jp/jiko/chuikanki/press/2023fy/prs230629.html

・(令和7年7月1日発表)モバイルバッテリーを原因とする収集車の火災が発生/綾瀬市

https://www.city.ayase.kanagawa.jp/soshiki/hishokohoka/pressrelease/press_33/22418.html

・ごみ処理場火災、原因はリチウム電池 修理に3千万円「分別徹底を」 [埼玉県]:朝日新聞

https://www.asahi.com/articles/ASR576VJ7R4PUTNB00G.html

・「死人が出ないのが奇跡」発火事故多発のリチウムイオン電池、どう捨てるのが正解?〈ごみ清掃員芸人が教える〉 | ニュース3面鏡 | ダイヤモンド・オンライン

https://diamond.jp/articles/-/371333?page=3

・港区ホームページ/令和7年9月から充電式電池(リチウムイオン電池、ニカド電池、ニッケル水素電池)を不燃ごみの日に回収します。

https://www.city.minato.tokyo.jp/gomigenryou/kurashi/gomi/kate/recycling/denchi.html

・新宿区ホームページ/小型充電式電池の排出方法について

https://www.city.shinjuku.lg.jp/kankyo/seiso01_002052.html

・江東区ホームページ/リチウムイオン電池(充電式電池)等の出し方について

https://www.city.koto.lg.jp/388010/syaryoukasai.html

・ごみに紛れたリチウムイオン電池で火災 被害数十億円の事業者の願い:朝日新聞

https://www.asahi.com/articles/AST8736JJT87UTFL002M.html

・EU:欧州委員会、改定バッテリー規制を採択|JOGMEC金属資源情報

https://mric.jogmec.go.jp/news_flash/20230901/178907/

・Recycling Laws By State

https://www.call2recycle.org/recycling-laws-by-state/?srsltid=AfmBOoqXYPoSsdPhm_NhOmCmxA4BPI3a_plmtkUwPb8epCV0rq9DEC7_

・韓国政府、使用済み電池産業育成へ、法・制度・インフラ整備の具体案発表(韓国) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ

https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/07/728f1e9ffeb92ef9.html

・リチウムイオン電池火災でゴミ処理施設損害 総務省が実態調査 - Impress Watch

https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/2026174.html