尾上眞秀【ヘアメイク:sachi、スタイリスト:河部菜津⼦(KiKi inc.)】(C)エンタメOVO
日本海沿岸の小さな漁師町を舞台に、元ヤクザの漁師・三浦と目の見えない少年・幸太という、年の離れた孤独な2人の絆を描くヒューマンドラマ『港のひかり』が、11月14日から全国公開中だ。
主演に舘ひろしを迎え、『正体』(24)の俊英・藤井道人監督と数々の名作を手掛けてきた名キャメラマン、木村大作がタッグを組んだ本作で、主人公・三浦と絆を育む少年・幸太を演じるのは、本作が映画初出演となる尾上眞秀。七代目尾上菊五郎を祖父、寺島しのぶを母に持ち、4歳から歌舞伎の舞台に立ってきた期待の新星だ。公開を前に、初めて経験した映画撮影の舞台裏を語ってくれた。
-映画初出演とは思えない眞秀さんの情感豊かなお芝居が印象的で、眞栄田郷敦さんが演じる青年時代の幸太とも一体感がありました。まずは、出演が決まった時のお気持ちをお聞かせください。
この映画の撮影は二年前で、出演が決まったときは僕もまだ小さかったので、詳しいことは覚えていないんです。ただ、藤井監督に初めてお会いしたとき、幸太の役について説明を受け、「せりふを覚えるのはまだ早いから、まずは感情をこめて台本を読んでほしい」とアドバイスをいただいたことが、印象に残っています。お母さんやおばあちゃん(富司純子)は、一緒に仕事をしたことのある木村大作さんが撮影を担当するということもあり、すごく喜んでくれました。
-幸太という役をどのように捉え、演じる上でどんな準備をしましたか。
幸太は弱視が原因でいじめを受け、悲しみを抱えた孤独な少年です。そこで、撮影前に1カ月ほど盲学校に通い、白杖の使い方や盲目の方の行動について勉強しました。弱視のお芝居については、普通は見ているものを目だけで追うのですが、首も一緒に動かせば弱視のように見える、と藤井監督から教わりました。それでも、白杖の使い方は難しかったです。
-この映画は石川県の能登地方で撮影されており、幸太にも地元の少年らしさが漂っています。そういう能登の空気になじむために心掛けたことがあれば教えてください。
ロケ地に泊まり込みで撮影していたので、撮影中は毎日のように朝市や地元のお店に通い、できるだけ能登の空気に触れるようにしました。朝市は朝7時ごろからにぎわい、色々なお店があり、新鮮な魚を売っているなど、東京では見られない光景が新鮮で、楽しかったです。
-幸太が「おじさん」と呼ぶ三浦役の舘ひろしさんとの共演はいかがでしたか。
舘さんとは初対面でしたが、今までテレビや映画で見ていたイメージ通りのダンディーな方でした。幸太と“おじさん”の関係を作るため、舘さんといろいろな話をしたり、食事に連れて行ってもらったりしました。僕はスポーツ、中でもサッカーや野球など球技全般が好きで、学校でもバレーボール部に所属しているので、舘さんはそういう僕の話を優しく聞いてくださいました。
-撮影で特に印象に残った場面を教えて下さい。
近所の少年たちにいじめられた幸太が大雨の中、おじさんの家の前で黙って座り込んでいるシーンが、すごく印象に残っています。カメラに綺麗に映るように、大量の雨を降らせていたので、その水圧がものすごくて。しかも、衣装が濡れるため、何度も撮影できるわけではないので、僕も気合を入れて撮影に臨みました。おかげで、NGを出すことなく、一発で「OK」をいただくことができました。
-歌舞伎とのお芝居の違いをどんなところに感じましたか。
歌舞伎はいったん幕が開いたら最後までお芝居が続きますが、映画は細かくカットを割り、何度も同じお芝居を繰り返し、テイクを重ねて撮るところが大きく違いました。前後のカットとのつながりを意識して演じなければいけない難しさもありましたし。ただその分、ベストなお芝居を追求していけるのは、面白かったです。歌舞伎では出合えないさまざまな役者の方や多くのスタッフの方と関われたことも、とてもいい経験になりました。
-撮影全体を振り返って、どんな印象をお持ちでしょうか。
今までお母さんから映画の現場の話を聞き、僕も映画に出演したいと思っていました。念願かなって初参加した映画の現場だったので、待ち時間もスタッフの方々のお仕事に注目していましたが、一つ一つのカットを、時間を掛けて準備する皆さんの熱意に驚かされました。その分、僕自身も「ありがとうございます」と、皆さんに対する感謝の気持ちが湧いてきました。しかも、皆さん忙しいにもかかわらず、とても優しくしてくださって。おかげで、撮影自体はすごく楽しかったです。
-完成した映画をご覧になった感想はいかがですか。
初出演映画ということで、精いっぱい頑張ったつもりでしたが、完成した映画を見たら、「ああすればよかった、こうすればよかった」という反省点がいくつも出てきました。ただその分、これからもっと頑張っていこうと、お芝居に対する意欲がさらに高まりました。
-それでは、今後の俳優としての目標を教えてください。
もっともっと経験を積み、ユーモアがあり、お客さんに楽しんでいただけるような俳優になりたいです。歌舞伎俳優としての目標は、おじいちゃんやひいおじいちゃん(七代目尾上梅幸)のような女形になることです。
-最後に、この映画の公開に向けての意気込みをお聞かせください。
映画初出演作ということで、どんなふうに皆さんにご覧いただけるのか、すごくワクワクしています。ぜひ多くの方にご覧いただけたらうれしいです。
(取材・文・写真/井上健一)







