完全ワイヤレスイヤホン市場のトレンドを徹底解剖

【完全ワイヤレスイヤホン最前線・4】完全ワイヤレスイヤホンの人気が、ますます広がっています。価格も機能も、選び方も人それぞれ。いまや「音を聴く道具」ではなく、「暮らしを映すアイテム」といえるかもしれません。そこで、家電量販店のビックカメラ有楽町店とイヤホン専門店のe☆イヤホンに話を聞き、売れ筋やトレンドを探ってみました。

売れ筋は「AirPods」や「水月雨」

ビックカメラ有楽町店で人気なのは、アップルの「AirPods」シリーズ、BOSEの「QuietComfort」、テクニクスの「EAH-AZ100」など。AirPodsはiPhoneとの接続性の良さが好評で、BOSEはノイズキャンセリング性能の高さが魅力です。

一方、e☆イヤホンではソニーの「WF-C510」「WF-C710N」「WF-1000XM5」、中国発ブランド「水月雨(MOONDROP)」が好調。中でも「Pillミュージックカプセル」「SPACE TRAVEL 2」といった5000円台のモデルが若年層に支持されています。

全体的には、1万円以下のエントリーモデルと3万円台のハイエンドモデルが人気。2万円台の中間層は少なく、はっきりとした二極化が進んでいます。

映像配信サービスが生む没入の時代

利用シーンも変化しています。ビックカメラによると、「NetflixやAmazonプライムで映画やドラマを観たい」という理由でイヤホンを探す来店客が増えているそうです。「映画館のような迫力を味わいたい」「セリフをクリアに聞きたい」といった声も多く、低音や空間オーディオを重視する傾向が強まっています。

試聴の際に動画を流すケースもあり、音楽だけでなく映像体験を高めるツールとしてイヤホンを選ぶ人が増える傾向にあります。e☆イヤホンでも、音の立体感を体験できるブースが人気。映像と音が一体となる没入感を求めて来店する人が後を絶ちません。

「見せるイヤホン」がファッションに

イヤホンで「聴く」だけでなく「見せる」ものとして楽しむ。そんな新しい価値観が広がっています。

e☆イヤホンでは、音質や価格に加えてデザインやカラーを重視して選ぶ人が増えています。アクセサリー感覚で、その日の服や気分に合わせて使い分けるスタイルが定着しつつあります。

ビックカメラ有楽町店の担当者も、「イヤホンがコーディネートの一部になっています。黒や白に加えて、ベージュやブルーなど服に合わせて選ぶ方も多いです」とのこと。あえて有線イヤホンをアクセサリーとして首から下げる学生や、Y2Kブームを背景にレトロな大型ヘッドホン(Marshallなど)を身につける若者が増えているとのことです。

シニア層では「聞こえ」を支えるツールに

若い世代がファッション感覚で楽しむ一方、シニア層の使い方も変わってきました。ビックカメラ有楽町店では、AirPodsなどを簡易的な集音機として使う人が増えているそうです。「補聴器を使うほどではないけれど、音をもう少し聞き取りやすくしたい」。そんな声に応えて、店内には集音機コーナーも設置されています。

通勤・通学でノイズキャンセリング、オンライン会議でマイク性能。利用シーンに合わせてイヤホンを使い分ける人が増えています。e☆イヤホンによると、「音楽用」「会議用」「外出用」と複数台を持つユーザーも少なくないそうです。暮らしのリズムに合わせてイヤホンを選ぶ。そんな自由な時代がやってきました。

試聴体験と買い替えを支える工夫

ビックカメラ有楽町店では、スタッフが来店客のスマートフォンに実際に接続し、普段の音楽や動画が試せるようになっています。さらに、ソフマップの下取り・買い取りサービスを通じて、最新モデルへの買い替えもスムーズ。e☆イヤホンでも、試聴を楽しんでから購入する人が多く、「音を選ぶ体験」自体が購買の楽しみになっています。

広がるイヤホンの価値

家電量販店とイヤホン専門店というスタイルが違っても、見えてくる傾向は共通しています。没入感を求める映像派。見せることを楽しむファッション派。そして、聞こえを支えるシニア層。ユーザーの価値観はかつてないほど広がっています。

どちらの担当者も、「今のイヤホン市場には正解がありません。選び方も、使い方も、人の数だけあります」と話していました。完全ワイヤレスイヤホンは、それぞれのライフスタイルを映す「身につけるデバイス」へと進化しているのです。(マイカ・秋葉けんた)

秋葉けんた

編集プロダクションのマイカに所属するITライター。雑誌、書籍、新聞、Web記事など、多岐にわたるメディアで執筆活動を行っている。特に家電やガジェット、IT関連の記事に豊富な実績があり、生成AIに関する書籍も多数手がけている。