警察にも頼られる野毛山動物園
では、違法に日本に持ち込まれた、あるいは持ちこまれそうになったカメが、どういう理由で野毛山動物園に託されるのだろうか。
密輸の保護個体として動物園にやってくる動物には、大きく分けて2通りのパターンがあるそうで、それによって手続きに多少の違いがある。
ひとつは、空港などで発見され、国内に持ち込まれるのを水際で防いだ場合だ。
この場合、国際条約であるワシントン条約違反(ワシントン条約に罰則規定はないため、国内法の外国為替及び外国貿易法が適用される)となり、発見された動物の所有権は経済産業省が持つことになる。
経産省からは日本動物園水族館協会(JAZA)に連絡が行き、JAZAから所属の動物園などに保護飼育の打診がされるんだそうだ。その後、動物園での飼育が始まっても所有権は国が持ち続けることになる。
野毛山動物園の保護個体の中で、最も新入りのモエギハコガメはこのパターンで野毛山へやって来た。
一方、税関をすり抜け、国内に持ち込まれてしまった場合は日本の法律が根拠になる。
国内外の希少な野生生物を保護するための「種の保存法(正式名称は、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)」や「文化財保護法」がそれだ。
文化財保護法に抵触するのは、国際取引ではなく国内の天然記念物に指定された動物の捕獲ややり取りなどが行われた場合。
野毛山動物園で飼育されているカメで言うと、リュウキュウヤマガメがこれに該当する。
国内法で保護された動物は、警察の証拠品という扱い。
警察から任意の動物園に保護飼育の打診がなされ、手続きが終わると所有権ごと動物園に移ることになっている。
野毛山動物園のカメの場合、近年では警視庁から保護を依頼されることが多かったそうだ。
警視庁による摘発件数が多いというのもあるが、都内にある上野動物園や多摩動物公園を差し置いて野毛山にやってくるのは、2003(平成15)年に起きた事件がきっかけになったという。
「実は、2003年に野毛山動物園からホウシャガメが盗まれたことがあったんです」と、当時爬虫類を担当し始めたばかりだったという桐生さんは話す。
そのカメ泥棒を逮捕してホウシャガメを取り戻してくれたのが警視庁で「そこで縁ができました」とのこと。
それに加え、桐生さんはホウシャガメやインドセタカガメを国内で初めて繁殖させるなど、数々の実績を持つカメ飼育のエキスパートでもある。
カメの飼育を安心して任せられる飼育員さんの存在も、野毛山動物園が頼られる理由であることは間違いない。