違法な上に乱暴な扱い
もちろん、禁じられた動物取引を行うことは、法的にも倫理的にもしてはいけないことだ。
しかし、問題はそれだけではなく、いわば二次被害的に動物が苦しめられるケースもある。
例えば、輸送の方法だ。
動物の長距離輸送はただでさえ気を使うことなのに、違法取引における輸送ではまったく動物に配慮がされないことがままあるそうだ。
劣悪な環境での輸送に耐えられず、日本に着いたときには動物が死んでしまっていたり、傷付いていたりすることも珍しくないという。
また、カメの中には飼育の難しい種もいる。
そういった知識や技術がないにもかかわらず、希少なカメを違法に飼育して死なせたり、健康状態を悪化させる例もあると桐生さんは話す。
この写真のホウシャガメは、保護されたときには、本来はドーム型になる甲羅がデコボコになってしまっていた。これは飼育環境の劣悪さを物語っているそうだ。
技術があるからといって飼っていいわけではないが、エサのやり方や温度、湿度をしっかり管理できなければ、甲羅の成長がいびつになるなどし、余計にカメを苦しめることになってしまうのだ。
故郷には帰れない
たぶん、この記事をここまで読んだ人の多くが、保護したなら生息地に戻してあげればいいじゃない、と思っているだろう。
桐生さんも「それができれば、理想です」と話す。
しかし、日本に密輸入される動物には、その過程で細菌やウイルス、寄生虫などが付いている可能性がある。
「例えば、インド原産のインドホシガメと一緒にいたホウシャガメを故郷のマダガスカルに帰すと、インドの細菌やウイルスをマダガスカルに持ち込むことにもなりかねない」と桐生さんは言う。
インドの動物たちには大きな害のない細菌やウイルスが、マダガスカルの動物にとっては致死性である可能性も否定できない。
そうなれば、里帰りさせることでかえってその種の生息数や、当地の生態系そのものに悪影響を与えるかもしれないのだ。
密輸元となっている国の中には検疫所を持たない地域も多く、そうなると「帰すべきではない」という判断がなされる。残念ながら、いったん密輸されてしまった動物は、動物園などで一生を過ごすほかないというわけだ。
取材を終えて
桐生さんは「爬虫類は密輸されやすい。その中でも、カメは圧倒的に多い」と話す。
鳴くことも、激しく動くこともしないので運びやすいという側面もあるが、日本人にカメ好きが多いという理由もある。
WWF(世界自然保護基金)とIUCN(国際自然保護連合)の自然保護事業として、国際的ネットワークを持つNGO団体「TRAFFIC」の日本支部「トラフィックイーストアジアジャパン」発行の『私たちの暮らしを支える世界の生物多様性-日本の野生生物取引のいま-』によれば、2007(平成19)年にリクガメの合法輸入量が世界2位になるなど、日本はカメ輸入大国でもある。
執筆時点で財務省から公表されている2014(平成26)年1月から11月までの輸入数を見ても、24万4958頭の爬虫類のうち、3分の2を超える16万6967頭をカメが占めている。
しかし、密輸する人間はもちろん、違法と知って飼育している人も、本当のカメ好きじゃない。本当に好きならそんなことはしないはずだ。
「動物を飼うこと自体を否定する気はありません」と話す桐生さんは「でも、禁止されている動物に手を出さないでほしい。できれば野生動物は動物園で見るようにしてほしい」と続ける。
また「合法でも野生動物を飼うのなら、きちんと飼えるだけの環境を整え、一生懸命勉強して、繁殖まで考えて飼うようにしてほしい」とも話してくれた。
野毛山動物園では、桐生さんの努力によって繁殖に成功した希少種も少なくない。それ自体はよろこばしいことだが、彼らを野生に戻すことは恐らく不可能だ。本来なら日本にいてはいけないカメたちなのだ。
カメが背負うのは甲羅だけでいい。一部の人間の都合で、余計な苦しみまで背負わせてはならない。
野毛山動物園からのお知らせ
講演会「知ろう・守ろう・日本の動物」(申し込み先着順)
期間/2月28日(土)
時間/13:30~15:50
「第10回 動物たちのSOS展」
期間/3月1日(日)~3月31日(火)
取材協力
野毛山動物園
所在地/横浜市西区老松町63-10
電話/045-231-1307
時間/9:30~16:30(最終入園は16:00)
入園料/無料
※本記事は2015年2月の「はまれぽ」記事を再掲載したものです。