弥生の武藤健一郎代表取締役社長執行役員兼CEO

弥生はこのほど、2026年の事業戦略説明会を開催。武藤健一郎代表取締役社長執行役員兼CEOが、中小企業を元気にするためのAI活用方針を発表した。昨年末から話題になっている、AIエージェントが人間の代わりに自律的に業務を遂行することによる「SaaSの死」についても見解を述べた。

AI活用で中小企業の経営判断を支援

「中小企業を元気にすることで、日本の好循環をつくる。」という新ミッションを掲げて武藤氏が弥生の社長に就任してから、2026年2月で約1年4カ月が経過した。

新ミッションは、「言われたことを聞く業務コンシェルジュから、もっと積極的に中小企業に元気になってもらう」という思いから策定した。また、弥生のありたい姿としてのビジョンに「現場に力を、経営に可能性を。」というワードを掲げている。「AIを活用したさまざまなデータを含めて、中小企業の経営判断を支援する」という意味を込めている。

25年は業務効率化・経営判断支援・組織の三つのセグメントにフォーカスして強化し、新生弥生のスタートラインに立つための1年だったという。具体的には、クラウド版「弥生会計Next」の提供と、Fintechサービス提供のためのM&Aによる土台づくりを進めた。

弥生会計Nextでは、中小企業の資金繰りの見通しをAIで支援する「資金分析β版」を実装した。M&Aでは、6月にMiletos、7月にAlarmbox、8月に創業手帳をグループに迎え入れた。

組織の変革では、ビジネスユニット(BU)制への移行や、全社員に生成AIアカウントを付与し、社員自らがAIを活用して理解を深める取り組みを実施した。

26年は引き続きAIテクノロジーの活用に加え、弥生の強みである顧客基盤や士業ネットワーク、データ、サポートを掛け合わせることで、あらゆる事業者の業務効率化や経営判断支援を加速していく。

弥生のAI戦略は「三つのA」

AI戦略では三つのAとして、

・Automate(業務の実行代行)

・Assist(判断・実行)

・Advise(助言・ガイド)

――を掲げる。

業務の実行代行は、AIを活用しながら領収書・請求書・通帳、所得税や控除、見積書・発注書・勤怠実績など中小企業に関する業務を、「会計」と「人事労務」に振り分ける。

判断・実行では、初めての業務でもAIが伴走し、迷わず実行できるようにする。

助言・ガイドでは、先述した資金繰り予測が代表的な機能となる。AIの予測に基づき、半年先までの現預金残高を表示し、資金調達手段なども提案する。

デスクトップユーザーにもAIの恩恵を

クラウド版「弥生会計Next」のリリースで、デスクトップ(DT)からクラウドへの移行を強めるのかと思いきや、DTには依然として根強いニーズがあるという。「慣れたUIやサクサクした操作感、通信環境がない環境でも使える安心感などの声が大きい」と武藤社長は語る。

DT製品の市場シェアは約6割で、新規ユーザーの約4割がDT製品を選んでいる。有償契約数も減少しておらず、むしろ増加傾向にあるという。

一般的に、「AIが使えるのはクラウド版だけ」というイメージがあるが、弥生ではこうしたニーズも踏まえ、DTユーザーにも最適な形でAIの恩恵が受けられるようにするという。

つまり、26年はクラウドとDTのプロダクトの両面で、またグループや組織の全方位でAI・データを導入していく方針だ。

「SaaSの死」への見解は?

SaaSの死について武藤社長は次のように述べた。

「弥生の価値は、データを持ち、お客様に信頼されたブランドであること。人間に代わってAIエージェントが、A社ではなく弥生を使うのは、弥生ならデータは守られており、会計基準も守られて数字も正確だから。ハルシネーションもなく、信頼できる。

また、弥生がデータを持っているからこそ、自社の状況を踏まえたアドバイスが可能になる。弥生のデータと信頼が強みになる」。

さらに、「高機能SaaSと弥生ソフトの比較は差別化にならない」とも続ける。

「弥生のユーザーは従業員20人以下の中小企業が多い。そうしたユーザーが複雑な機能を求めているわけではない。だから弥生ソフトは機能をできるだけシンプルにしている。今回のSaaSの死で打撃を受けるのは高機能SaaSだろう。われわれにとってそこは今も差別化になっていないし、今後AIエージェントの世界になっても変わらない」との見解を述べた。