京にやって来たばかりの頃、西郷吉之助(鈴木亮平)、大久保一蔵(瑛太)らが出会ったのが、茶屋「繁の家」の人気芸妓ゆう。やがて大久保と恋に落ちると芸妓を辞め、鳥羽・伏見の戦いで新政府軍の切り札となった「錦の御旗」を作るなど、大久保を献身的に支えていくことになる。演じる内田有紀が、役作り、ゆうと大久保との関係などについて語ってくれた。
-第36回で、ゆうが作った錦の御旗が鳥羽・伏見の戦いで新政府軍を勝利に導くなど、“革命編”では女性たちの存在にもスポットが当たっています。演じる側として、どんなことを感じていますか。
私も幕末の物語が大好きなので、登場人物の名前を見ているだけでワクワクします。それに加えて、この作品では少しずつですが、男性をサポートする女性たちの姿もチャーミングに描かれているのも見どころです。そういう意味では、歴史を掘り下げる部分は男性に任せて、女性たちのパートはホッとできたり、愛らしさが出てきたりする部分として、丁寧に一生懸命演じたいと思っています。特にゆうの場合は、正妻の満寿(美村里江)さんには申し訳ありませんが、大久保さんをサポートする姿を見てもらって、ライバル心を燃やしてもらおうかと(笑)。
-そんな女性たちの活躍を見て、幕末に対する印象は変わりましたか。
確かに、幕末で女性の存在を意識したことは、今まであまりないかもしれません。坂本龍馬の奥さんのお龍さんぐらいでしょうか。どうしても、他に有名な人たちが多いので…。ですから、この作品を見ていると「時代を変えるんだ」という男性たちの勢いに飲まれるのではなく、女性たちも必死に付いていきながら、旦那さんや愛する人をサポートできる強さを身につけていったのではないか…。そんな気がしてきます。
-ゆうはもともと、芸妓でしたが、役作りはどのように?
当初は、劇中で踊るかどうか分からなかったので、まず踊りの稽古をさせていただきました。踊る場面はありませんでしたが、おかげで気持ちを作ることができました。ただ、日常の所作は踊りとまた違うんです。驚きました。踊りではたもとの下に手をやるようなしぐさが多いのですが、日常では少ない上に、指先の動きも違っていて…。そういう細かいニュアンスの一つ一つがお芝居に出るので、役を作るのはとても細かい作業だと、改めて気付かされました。
-ゆうは芸妓を辞めてから装いが大きく変わりました。話し方なども変わりましたか。
全く違います。衣装が変わったことで、話すテンポも、動きも自然に変わりました。だから、芸妓の頃のゆうも、お座敷以外ではきっとこういうふうに暮らしていたんだろうなと、想像することができました。
-ゆうが愛する大久保の魅力とは?
少しドライで頑固なところではないでしょうか。熱いだけでなく、決して芯を曲げない。出てくる人はみんな頑固なところがありますが、大久保さんに比べたら、西郷さんの方が人の話を聞こうとする雰囲気があります。もしかしたら、話せば聞いてくれるかも…?という余白があるというか…。大久保さんの方は、一度こうと決めたら、テコでも動かない印象(笑)。とはいえ、時代を切り開いた人は、誰しも多少は変わっているもの。そうでなければ、そんなことは考えませんから。それよりも、世の中を変えようと志を持ち、それを実行できることの方がカッコいい。そういう意味で、頑固さやドライな部分が大久保さんの魅力かなと。
-地元・鹿児島では大久保はあまり人気がないようですね。
でも、瑛太さんが演じる大久保さんは人間的なところもあって、この作品をきっかけに好きになってもらえたらいいですね。
-そんな大久保を演じる瑛太さんの印象は?
大久保さんの格好をしているときの瑛太さんは、普段とは全く違います。口数も少ないですし、リハーサルのときから西郷さんとの距離感を保っている感じがあります。だから、現場ではできるだけ大久保さんでいようとしているのかなと。ただ、私が撮影に入ったときには、もうすでに瑛太さんの大久保さんが出来上がっていたので、できれば最初の頃からどんなふうに役を作って行ったのか、見てみたかったです。
-ゆうと大久保の関係はどんなものだったと考えますか。
ゆうは芸妓ですが、誰かに依存するのではなく、ちゃんと自分のポリシーを持って生きている人。だけど、今の私たちから見れば、女性の立場であの時代を生きることは、とてもつらく、耐えられないことも多かったはず。そんな中、大久保さんといるときだけは、一緒に夢を見られたのではないかなと。どこか似たところもあって、もし、ゆうが男性だったら、大久保さんと一緒に行動を起こしていたのではないでしょうか。同時にゆうは、大久保さんの体を気遣う女性らしい一面も持っている。とてもカッコいい人だなと。演じる上でも、そういう魅力を表現したいと思っています。
-ところで、大久保の正妻である満寿さんの印象は?
「西郷どん」の満寿さんは「内助の功」という言葉がピッタリな、こちらが嫉妬するぐらいよくできた女性。地に足を付けて大久保さんを支えるしっかりした人という印象です。その分、私の方は大久保さんがもたれかかることができるクッションのような女性でいようと、雰囲気を少し柔らかめにすることを心掛けています。
-最後に、主人公・西郷吉之助(隆盛)に対する印象をお聞かせください。
漠然と、大らかで優しそうなイメージを抱いていました。だけど今回、実はすごくナイーブで、気遣いもできて、自分の気持ちや考えを持て余している人だったことに初めて気付かされました。なぜこんなに苦労しているんだろうと、かわいそうに思えるぐらいで…。銅像のイメージとはだいぶ変わってきました。そんな西郷さんを、最近は亮平さんが狂気にも見える怖さを出しつつ演じています。それを見ると、ゾクッとします。常にもっと魂を揺さぶって演じようと、真剣に役と向き合っているようで、その一生懸命さを見ると、いつもすがすがしい気持ちにさせられます。
(取材・文/井上健一)