今井福子役の安藤サクラ

 インスタントラーメンを生み出した夫婦の知られざる物語を描いた本作で、ヒロイン福子役を演じる安藤サクラ。インタビュー中、何度も「幸せ」と笑みをこぼす安藤だが、当初はオファーを受ける可能性はゼロだった…。母として、妻としての葛藤を乗り越え、史上初の子育て中のヒロインとして撮影に挑む、その胸中を聞いた。

-昨年6月に俳優で夫の柄本佑さんとの間に第1子をもうけた安藤さんですが、子育て中の女優がヒロイン役を演じることは異例です。オファーをもらったときの率直な気持ちは?

 子どもを産んだら、私は子育てに専念して、妻としても家庭に入るべきだろうな…と思っていたので、このタイミングでのオファーは受けられるわけがないので悔しかったです。可能性はゼロでした。だから、「子どもがいなければやっていたのに…」というネガティブな考えではなく、どうポジティブな出来事として切り替えられるかを考えていましたが、それが難しくてつらかったです。

-そんな中、家族の後押しがあったのですね。

 3人の子どもを育て、女優を続ける義理の母(角替和枝)の「これをやらないなら事務所も辞めちゃいな」という言葉が覚悟する決め手の一つになりました。父(奥田瑛二)からは「これは挑戦じゃない。冒険だ」と言われました。最初は、一人で、いばらの道や登りにくい山を進むんだ、と捉えていましたが、今は「まんぷく」のみんなで手をつないで冒険しているようで幸せです。背中を押してくれた家族みんなに感謝しています。

-過去に何度もヒロインオーディションに挑戦していたようですが、その理由とは?

 朝ドラのイメージは「日本の隅々まで届けられる作品」。映画などの撮影で山奥に行くと、現地の人たちにお世話になりますが、その映画をその地域に届けられないことが多くて、はがゆくて、いつか朝ドラに出たら恩返しができるんじゃないか…とずっと思っていました。

-念願がかなっての本作ですが、脚本を読んだときの感想は?

 漫画の新刊でもこんなにワクワクしながら待ったことはないです。新しい台本が届くのが楽しみで、本当に楽しいし、驚かされるし、ゲラゲラ笑ってしまいます。ただ、この面白さを自分が表現できるのか…とプレッシャーになることもあります(笑)。

-福子はどういうキャラクターですか。

 いい意味で楽天家で、大変な出来事もよりパワフルに、健やかに、楽しく、いい力に変えられる女性です。私自身、福ちゃんのせりふや行動にすごく助けられています。

-福子は安藤さんに似ている気もしますが。

 私も同じ時間を過ごすなら、よりよいハッピーな時間を過ごしたいと思っていますが、福ちゃんを演じることで、自然と体も心も“福”に近づいている気がします。似ているというより、つらい時間も状況も、幸せなものに変換していく力を共有している感じです。

-演じる上で心掛けていることはありますか。

 今までにもこういう軽やかな役はありましたが、ひねくれた役が多いので、今回は福ちゃんとして、真っすぐに立って前を見る肉体を持たなければいけないと思いました。私も人としていい生き物に生まれ変われる気がしています。

-母親になって役者としての変化もあるのでしょうか。

 すごく変わりました。母ちゃんになったら、全てにおいてエネルギーが満ちあふれていて、体力もあって、その感覚に驚いています。今だからこそ、朝ドラヒロインもできると感じています。

-共演者とはすぐに打ち解けられましたか。

 最初は、松坂(慶子/母・鈴)さん、内田(有紀/長女・咲)さん、松下(奈緒/次女・克子)さんという、大好きな方々で緊張しましたが、会ったときから優しく接していただいて居心地もよくて、私は今井家の末っ子らしく皆さんにすぐに甘えていました。

-実業家で、やがて夫になる萬平を演じる長谷川博己さんとは初共演ですが、いかがですか。

 ずっとファンだったのでうれしくて、撮影をいつも楽しんでいます。たまに萬平さんの扮装じゃない長谷川さんをスタジオの外でお見かけすると、こんなに色っぽいイケメンなんだ!とびっくりして、ギャップ萌えもしています(笑)。

-萬平とのロマンスも気になりますね。

 萬平さんはかわいらしくて、見ているとこっちまでニコニコしてしまう人です。頼もしいところもありますが、福ちゃんみたいなとんちんかんなところもあるので、そんな2人のロマンスはおちゃめで面白いです。不器用だけど、仲良く寄り添い、真っすぐに進んでいきます。

-アニメーションやアーティスト作品によって作られるタイトルバックが多い昨今、今回は監督の手で、福ちゃんが自然の中を歩く姿を映していて新鮮でした。どのようなイメージで撮影されましたか。

 撮影は淡路島の海や日吉大社、戦後の焼け野原のシーンを撮った場所で行いました。始まりの場所というか、私たちが生きる上で意識しなければいけないような場所なので、感じたものをありのままに出しました。ラストのアクションは「大地も海も全てを母なる福ちゃんが全身で受け止める!」という気持ちを込めました。このタイトルバックは私の宝物です。動画遺影にしようかなと考えています(笑)。

(取材・文/錦怜那)