新しい街の急坂は分別がある

さて、まずはコメントなどで新たに寄せられた急坂のなかから、市の南西部、栄区・戸塚区・泉区・旭区・緑区の坂を紹介していくことに。

栄区に入り、もうそろそろ目的地かなと思っていると川を渡る橋を通過。こうした川が「前触れ」であることは多い。急坂を探していると、現在は穏やかな流れでも、かつては力強く、そして長い時間をかけて大地を削り取った場所に坂が生まれるのだなあ、といつも思わされる。

こののどかな風景がいくつもの急坂たちを生み出した名残りかと思うと感慨深い

さて、見当をつけた高台に車を止めて降りてみると、あたり一帯に急坂の気配は感じたが、坂はいくつもありそうで、どちらに進むべきか迷った。

 

車を止めたすぐ近くにはこんな細く急な階段がある。しかし坂はどこだろう

そこで、近くのバス停で待つ女性に「このへんで急だなと思う坂ってありますか」ときいてみた。

すると「そうねえ」と何秒か考えたあと「信号を渡って道なりにカーブしたあとで右に曲がる、“湘南ハイツ”に上がる坂が急じゃないかしら」との情報を入手。「栄区の湘南ハイツに上る坂はかなりの急勾配です」という投稿と同じ「湘南ハイツ」の言葉もふくまれているから間違いないだろう。そしてこの坂はやはりよく知られているようだ。

女性にお礼を言って車に乗り込み、その坂に向かうと、そこには迫力ある光景が待っていた。しかし、それは視覚がもたらす魔法でもあった。

 

栄区公田町(くでんちょう)931「湘南ハイツの坂」…5°(8.7%)

道幅が広く長くまっすぐにのぼっていく坂は迫力ある光景を生み出すが、角度は往々にしてやさしい。とはいえ坂の上からは素晴らしい眺めがひろがる。

「湘南ハイツ」と住宅地にモダンな名前がついていることからもわかるように、戦後、大規模な造成がおこなわれた住宅地は、山を大きく削って整地するので、傾斜も計算され、急なものでも10°程度に抑えが効いていることが多く、急坂が生まれにくいのである。

ちなみにこの地区が宅地開発されたのは1971(昭和46)~1975(昭和50)年。湘南ハイツは住宅地内をバスが運行しているため、そのことも想定してのこの角度だと思われる。

整然と造成された湘南ハイツを俯瞰。計測した坂は丘陵地を縦に貫く緑色部分

湘南ハイツでは車道は傾斜を抑えるために蛇行しているが、蛇行する車道を歩くと遠回りになってしまうため、歩行者用道路は階段で直進できるようになっている。

地図でいうと赤い部分にある階段は
坂なら急坂間違いなしだが、自動車の安全性と歩行者の利便性を高める設計
栄区には湘南ハイツと同じように整然とした区画で開発された宅地が多い
と同時に坂道など作れないほど切り立った丘陵地と接している場所も多い