今夏は、ただ怖がらせるだけではなく、恋愛や社会風刺、青春ドラマなど異なるジャンルを巧みに掛け合わせた“異色ホラー”が目を引く。恐怖の中に笑いがあり、切なさがあり、現代社会への視線もある。そんな一筋縄ではいかない作品がそろった。
1本目はアメリカ映画『オブセッション 災愛』(7月17日公開)。孤独で内向的な青年ベア(マイケル・ジョンストン)は、思いを寄せるニッキー(インディ・ナバレッテ)に愛されたい一心で、願いをかなえる呪物「ワン・ウィッシュ・ウィロー」に手を出す。願いはかなったものの、ニッキーの愛情は次第に常軌を逸した執着へと変貌し、ベアを破滅へと追い詰めていく。
本作は、YouTube動画で注目を集めたカリー・バーカー監督の劇場映画デビュー作で、低予算ながらアメリカでヒットを記録した。原題の「Obsession(強迫観念)」が示す通り、恋愛感情が一歩間違えば狂気へと転じる恐ろしさを描いている。
願い事には必ず代償が伴うという古典的なモチーフを現代風にアレンジし、青春ラブストーリーのような空気から徐々にホラーへと変調していく演出が秀逸だ。
ユーモアと恐怖を交錯させることで生まれる違和感が、かえって観客の不安を増幅させるあたりには、どこかスティーブン・キングの作品を思わせる味わいもある。
優柔不断で気弱なベアを演じたジョンストン、憧れから恐怖の存在へと変貌するニッキーを演じたナバレッテの演技も見応え十分。ナバレッテは『ヘレディタリー/継承』(18)のトニ・コレットや『Pearl パール』(22)のミア・ゴスから役づくりのヒントを得たという。
一方、タイから届いた『ユースフル・ゴースト』(10日公開)は、さらに大胆な発想で観客を驚かせる。粉じん公害が深刻化したバンコクで、呼吸器疾患によって妻ナット(ダビカ・ホーン)を失ったマーチ(ウィットサルート・ヒンマラート)の前に、彼女の霊が掃除機の姿となって帰ってくるという奇想天外な設定だ。
『殺人ブルドーザー』(74)『ザ・カー』(77)『クリスティーン』(83)など、車に霊が宿るホラー映画はこれまでも存在した。しかし、憑依(ひょうい)する対象が掃除機という発想には思わず笑ってしまう。
夫婦が愛を確かめ合う場面が、第三者には「人間が掃除機を抱きしめている」ようにしか見えないというシュールな演出も絶妙だ。
もっとも、本作は単なるアイデアの奇抜さだけでは終わらない。タイの怪談「メー・ナーク・プラカノーン」を下敷きに、ロマンス、コメディー、ホラー、SFを自在に横断しながら、性的マイノリティーへの偏見、多様な愛の形、記憶と忘却、個人と社会の関係といった現代的なテーマを織り込んでいる。
長編デビュー作となるラッチャプーム・ブンバンチャーチョーク監督ならではの粗削りな演出も魅力で、2025年のカンヌ国際映画祭・批評家週間グランプリ受賞も納得の個性派作品だ。
そして日本からは、Jホラーの名手・清水崇監督による『だぁれかさんとアソぼ?』(24日公開)。若者たちの間で広まる禁断の遊び。それは学校の誰もいない階段の13段目でカセットテープに日付と名前を吹き込むと、その人物は指定された日に死ぬという都市伝説を軸に物語が展開する。
軽い気持ちで遊びに手を出した高校生たちは次々と怪異に襲われ、心理カウンセラーの平瀬小春(鎮西寿々歌)も妹の菜々美(星乃あんな)を救うため恐怖の連鎖へ巻き込まれていく。
『ミンナのウタ』(23)『あのコはだぁれ?』(24)と同じ世界観を共有しながら、単独でも楽しめる構成になっている。学校の怪談や都市伝説という親しみやすい題材を用いながら、人は「絶対にやってはいけない」と言われるほど試したくなるという人間の性(さが)を巧みに突き、そこから恐怖を増幅させていく手腕はさすが清水監督である。若手キャストを容赦なく追い詰める演出も、Jホラーの第一人者ならではの冴えを見せる。
いずれの作品にも共通するのは、「怖い」という感情だけに頼っていないこと。恋愛が狂気へと変わる『オブセッション 災愛』、掃除機に宿った幽霊という奇想から社会問題までを描く『ユースフル・ゴースト』、都市伝説を通して人間の好奇心と愚かさを映し出す『だぁれかさんとアソぼ?』。恐怖の形はさまざまであり、それぞれが異なる切り口から現代人の心理や社会を映し出しているとも言えるだろう。
(田中雄二)







