ビブリア古書堂の店主・栞子(黒木華)と店で働く青年・大輔(野村周平)が、50年前の過去に隠された夏目漱石のサイン本の秘密と、現代で何者かに狙われる太宰治の希少本に秘められた真実を解き明かしていく姿を描いた映画『ビブリア古書堂の事件手帖』(11月1日公開)。本作で初共演する黒木と野村に、それぞれの印象や撮影時のエピソード、原作の実写化に対する率直な思いを聞いた。
-初共演でダブル主演を務めましたが、お互いの印象はいかがでしたか。
野村 最初はおしとやかで、寡黙な人で、僕みたいなにぎやかな人は苦手だろうなと思っていたけど、そんなこともなく、こんなに子どもっぽい僕でも温かく包み込んでくれて、女神みたいな人でした。
-最初からグイッと距離を縮められたのですか。
野村 でっかいショベルだといき過ぎちゃうので、小さいスコップでガリガリと様子をうかがいないながら掘っていく感じでした(笑)。
黒木 最初はグイグイこられたらどうしようと思っていたのですが、実際は、すごく気を使って現場を盛り上げてくださる方で助かりました。ムードメーカーなので現場にいらっしゃらないときは寂しかったです。うそがないから信頼もできますし、こんな弟がいたらいいなと思いました。
-本好きで静かなたたずまいの栞子役は黒木さんにぴったりでしたが、役へのアプローチでこだわったところはどこでしょうか。
黒木 うれしいです。ありがとうございます(笑)。栞子は人見知りで内向的なので、そこを表現するために眼鏡の上げ方や、髪をかき上げるしぐさ、困ったときに下を向く癖などにはこだわりました。
-三島有紀子監督から直接指導も受けましたか。
黒木 普段の栞子と謎解きをするミステリアスな部分のメリハリをはっきりさせてほしいというリクエストがあったので、本のことや興味のあることになると、周りが見えなくなって早口になるなど、相談しながら作り込んでいきました。
-大輔は原作とは風貌が全く違いますよね。
野村 そうなんですよ。監督と話して、今回はあえて原作を読まずに役作りをしたんですが、撮影が終わってから原作を読んだら、大輔は柔道をやっていて、めちゃめちゃゴリマッチョで、短髪で身長も高いことを知ってびっくりしました。それを知っていたら変に影響されるので、読まなくてよかったです(笑)。
-ただ、活字恐怖症で実直な大輔のキャラクターは、やはり野村さんらしさが出ているように思いました。どのような役作りを?
野村 僕は直感で動くタイプなので、事前に役作りをするよりも、現場で「見て!こういうのどうですか?」と提案する感じでやっていました。あとは信頼している三島監督の指示を守っていたらこうなったので本当に感謝しています。
-小説や漫画の実写化に対しては、プレッシャーを感じる方と、原作と映画は完全に別物と捉えてフラットな気持ちで挑む方がいますが、お二人はいかがですか。
野村 プレッシャーは感じるし、自分が演じるとなるとやっぱり大変ですよ。だから、なるべくイメージに近いキャスティングをしてほしいです(笑)。でも今回は割り切って僕なりの大輔をやらせてもらいました。
黒木 私もプレッシャーは感じます。特に今回のような“美人”って難しいですよね。ただ、黒髪ストレートや眼鏡など、できるだけビジュアルはくみ取りつつ、自分らしい栞子をきちんと演じることを心掛けました。
-劇中で、長ぜりふや体を張ったシーンなどもありますが、特に大変だったシーンはありますか。
黒木 謎解きのせりふをワンカットで撮るのは大変でした。読み聞かせのシーンも、栞子らしく、かつ相手が聞きやすく読むことは難しかったです。
野村 犯人を追い駆けるシーンでは監督のこだわりが強過ぎて、200メートルを10本ぐらい走ったんですよ(笑)。あれは疲れました…。
-夏帆さん演じる大輔の祖母・絹子と東出昌大さん演じる小説家志望の青年・田中嘉雄との秘密の恋を描いた過去パートは、現代パートと全く違うノスタルジックな映像がすてきでしたが、ご覧になっての感想は?
黒木 すてきですよね。まるで純文学のようで、お二人とも絵になりますし、出来上がったものを見て初めて、こうやって過去と現代が本を通してつながっているんだと感動しました。
野村 光とかスモークの使い方が素晴らしくてきれいな映像になっていたし、お二人ともお似合いで、こっちがメインじゃないかというくらい見入ってしまいました。現代はポップで、過去は深い感じで、その対比もいいですよね。
-最後に、人生を変えるような本との出会いがあれば教えてください。
黒木 『コインロッカー・ベイビーズ』(村上龍)や太宰治など、自分と同じそこはかとなく暗い登場人物の作品が好きですし、岩井俊二さんの『リリイ・シュシュのすべて』はずっと好きです。今まで読んできた本や、見てきた映画で、自分の中身ができ上がっている気がしています。
野村 僕の場合は人生を変えるものは人なんです。人から自分にないものを得ることが多いです。ただ、最近は何でも知っている人って格好いいなと思って本も読むようになりました。何も知らなそうで何でも知っているって格好良くないですか? そういう人を目指したいです!
(取材・文・写真/錦怜那)