早瀬憩(C)エンタメOVO
新垣結衣と共演した『違国日記』(24)で鮮烈な印象を残し、今年は「サバ缶、宇宙へ行く」、『モブ子の恋』など、続々と出演作が放送・公開される注目の若手俳優・早瀬憩。その最新出演作『私はあなたを知らない、』が、8月28日から全国公開される。
数々の映画賞を席巻した『湯を沸かすほどの熱い愛』(16)の中野量太監督が完全オリジナル脚本で挑んだ本作は、愛する人を殺めるという重い罪を犯した孤独な青年・西山夕平(坂口健太郎)と、夕平によって母の命を奪われた少女・東浜朝子が、13年の時を経て対峙(たいじ)する感動のヒューマンサスペンスだ。朝子を演じる早瀬は劇中、見る者の心を揺さぶる入魂の演技を披露。公開を前に、その舞台裏を語ってくれた。
-早瀬さんの熱のこもったお芝居と物語に心動かされました。早瀬さんは、映画公式サイトで「オーディションを受けてから日に日に朝子に対する思いが強くなっていき、役をつかみ取りたい!と心から思っていました」とコメントされていますが、出演が決まったときのお気持ちをお聞かせください。
オーディションのときから中野監督は、まるでその場が現場のように朝子として私に接し、お芝居をさせてくださいました。「次はこうしてください」などと指示もくださり、この作品に懸ける中野監督の思いを感じると同時に、自分にとって朝子が大切な存在となっていき、「朝子を演じたい」という思いも強くなりました。だから、出演が決まった時は喜びや安心感と同時に、自分が演じる責任感が湧きあがってきました。
-それほど思い入れのある朝子は、幼少期に家族のように過ごしながらも、母親の命を奪った夕平と対峙する難しい役です。演じるに当たって、どのようにアプローチしていったのでしょうか。
脚本を読んでも一度では理解しきれなかったので、何度も繰り返し読み込みました。中野監督が、朝子がこれまでどう生きてきたのかをまとめた経歴書や、作品に込めた思いを記した資料をくださったので、それも参考にしました。さらに、中野監督から勧められ、朝子の気持ちになっておばあちゃんに宛てた手紙を書きました。朝子が、失ってしまった両親の分まで愛情を注いでくれたおばあちゃんに出すなら、どんな手紙になるのか想像しながら書くことで、朝子の気持ちに寄り添うことができました。
-映画公式サイトには「中野監督は、私がまだ持っていなかった感情や新しい表現を引き出してくれました」という早瀬さんのコメントもありますが、中野監督とはどのようなやりとりをしましたか。
中野監督は、私と同じ目線でお話をしてくださり、撮影に入る前から何度も話し合いを重ね、徐々に朝子を自分の中に落とし込んでいきました。現場でも妥協することなく、監督の納得するお芝居ができるまで、何度もテイクを重ねてくださいました。カットがかかるたび、熱意を持って「次はこうしてみよう」と細かく指示もいただいて。そうやって、私自身もこれまで知らなかった感情を引き出していただきました。
-初共演となる夕平役の坂口健太郎さんの印象はいかがでしたか。
坂口さんは、初めてお会いしたときから、優しく声をかけてくださいました。幼少期の朝子の場面の撮影を見学させていただいたときも、常に穏やかでユーモアにあふれ、坂口さんの周りに自然と人が集まり、みんなを笑顔にするすてきな方でした。
-朝子が夕平と刑務所で面会するシーンは、お二人の熱量高いお芝居に圧倒されます。
面会室のシーンでは、坂口さんは入念に役作りをして撮影に臨まれていたので、5歳の朝子とのシーンからの変貌ぶりに衝撃を受けました。ただその分、刑務所に面会に行った経験のない私でも、坂口さんと向き合ってお芝居する中で、「こんな気持ちになるんだ」と気づかされることが多くありました。心身共に削られるシーンでしたが、夕平の言葉を受けて朝子が発言することが多かったので、坂口さんにはお芝居の上でとても助けていただきました。また、坂口さんだけでなく、撮影現場に入って共演者の皆さんとお芝居することで、朝子の感情が理解できる部分も多々ありました。
-中野監督は、早瀬さんのクランクアップ時の様子について「崩れ落ちるように」と語っていますが、当時の心境はいかがでしたか。
撮影中は朝子と一心同体で生きた感覚があったので、クランクアップしたときは「うれしい」でも「寂しい」でもなく、何とも言えないものがありました。監督も「よく頑張った」と声を掛けてくださったので、いろいろな感情が湧き上がってきて…。そのときの感情に最も近い言葉を探すなら、「達成感」ということになるのかもしれません。
-熱演の秘密が垣間見えるお話をありがとうございます。ところで、早瀬さんは今年、俳優デビューから5年を迎え、本作も含めて目覚ましいご活躍が続きます。その中で、お芝居に対する思いが変わってきた部分はありますか。
5年間、あっという間でした。今も日々勉強ですが、「お芝居が楽しい」という気持ちは始めた頃からずっと変わりません。
-むしろ、そういう思いは作品を重ねるごとに深まっているのでしょうか。
ものすごく深まってきています。お芝居はもちろんのこと、私自身、人との出会いを大切にしていますが、この仕事は一期一会で、現場ごとに皆さんが集まり、終われば解散…の繰り返しです。その中で、さまざまな監督や共演者、スタッフの皆さんと出会い、その都度、多くのことを学ばせていただいています。私は、皆さんが一丸となって「いい作品を作ろう」と取り組む現場の空気感が大好きで、いつも「一秒でも長く現場にいたい」と思っていますし、現場だけでなくこういう取材の場も、ひとつの出会いとして大切にしていきたいと思っています。
-今年、高校を卒業したとのことで、これから俳優業に専念されると思いますが、俳優としての目標を教えてください。
最近は『モブ子の恋』をご覧になった方から、「明るく元気な役も良かった」と褒めていただくことが多いので、今後はそういう役にも挑戦していきたいです。また、私はノンフィクションやドキュメンタリーが好きでよく見るのですが、題材になっている人物の生き方から影響を受けることも多いんです。だから、そんなふうに一人の人生を生き切るような経験ができたらと。その点、この作品ではそれに近い経験ができたと思います。これからは、今まで通りいただいた役に全力で向き合うことを第一に、俳優としてだけでなく、一人の人間としても、自分らしくゆっくり着実に、自分の人生に向き合っていけたらと考えています。
-それでは最後に、映画の公開を待つお客さんに向けてお言葉をお願いします。
登場人物それぞれに愛の形が異なり、誰もが愛を探したり、失ったりして、悩みながら、もがきながら生きています。だから、誰に感情移入するか、誰に共感するか、ご覧になる方によって変わってくると思います。『私はあなたを知らない、』という印象的なタイトルの意味も明らかになるので、ぜひ映画館でご覧いただき、ご家族やお友だち、大切な人と語り合っていただけたらうれしいです。
(取材・文・写真/井上健一)







