ラーメン業界の内情を知りたいならこの一作!

先の『ラーメン大好き小泉さん』を入門書とするなら、ラーメン漫画の参考書は『ラーメン発見伝』(久部緑郎・河合単/小学館)だろう。ラーメン王の称号を持つ評論家の石神秀幸さんを協力者に迎え、あらゆる角度からラーメンの世界を深く掘り下げている。

主人公の藤本は幼いころからラーメンに魅せられている青年。普段はぐーたら商社マンとして過ごすが、退社後にはラーメン屋台をひいて開業のための修業に明け暮れる。そんなある日、会社でもラーメンを扱う事業の話が持ち上がり、藤本と佐倉(ヒロイン)が担当者に選ばれた。次々と降りかかる難題に対し、藤本たちはどう乗り越えていくのか……?

ごくあっさり言えば『美味しんぼ』のラーメン特化版である。エピソードの要素は大きく3つ。「会社のラーメン事業にまつわる難題を主人公の腕と閃きで解決」「ラーメン関係で困っている人を主人公が助ける」「ラーメンを中心に据えた主人公とヒロインの恋愛」がメインで、その過程として強力なライバルとの料理対決が展開される。

『美味しんぼ』の海原雄山に相当するキャラクターとして、ラーメン業界のトップランナーと言われる芹沢が登場。腹黒く傲慢な男だがラーメン作りの腕前と経験は圧倒的で、何度も藤本に苦渋を舐めさせる。この最強ライバルを藤本が乗り越えて独立開業の自信をつかめるかが見どころだ。

また、ラーメン作りを“経営者の視点”から見ているところが非常にユニーク。本作の料理バトルでもラーメン自体のおいしさが重視されるのは当然だが、それだけにとどまらない。素晴らしくうまいラーメンを作っても「うまさの主要因である食材が安定供給できない」「ラーメンの味が客層と合っていない」と判断されれば敗れることもあるのだ。その判定理由には説得力があり、ビジネスとしてのラーメン業を成功させるのがどれだけ厳しいのかを読者も知っていくことになる。

おいしさの面ではスープや麺作りからダシの取り方、果てはドンブリの色やネギの切り方まで。経営の面では座席数、行列の捌き方、営業時間帯まで。「味噌ラーメンの抱える構造的な欠陥」や「少ないスープから大量のラーメンを作る抜け道」など、きわどいネタにも事欠かない。ことラーメンに関する情報量で本作に並ぶものは存在しないと言える。どっしり腰を据えてラーメン漫画を堪能したい人には、本作とその続編の『らーめん才遊記』がイチオシだ。