(左から)尾上松也(ヘアメイク:岡田泰宜、スタイリスト:椎名宣光)、奥智哉(ヘアメイク:八十島優吾、スタイリスト:村留利弘)(C)エンタメOVO
横溝正史原作の名作ミステリーが、令和の時代によみがえる!これまで繰り返し映像化されてきた『八つ墓村』が装いも新たに映画化され、9月18日から全国公開となる。
岡山県の山奥にひっそりとたたずむ八つ墓村で起きる連続殺人の謎に、名探偵・金田一耕助と、村の名家・田治見家の莫大な遺産を相続することになった青年・井川辰弥が立ち向かう。
金田一を演じるのは、NHKの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(22)など数々の映像作品でも活躍する歌舞伎俳優の尾上松也。辰弥役に抜擢されたのは、昨年の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(25)での活躍も記憶に新しい若手俳優の奥智哉。公開を前に、撮影の舞台裏を語ってくれた。
-名作ミステリーの映画化ということで、まずはオファーを受けたときのお気持ちからお聞かせください。
松也 『八つ墓村』といえば、誰もが知る名作です。その映画でまさか自分が金田一耕助を演じさせていただく日が来るとは思ってもいませんでしたので、喜びよりも「僕でいいんですか?」と驚きの方が大きかったです。それでも、日が経つにつれ、これまで数多くの名優が演じられてきた金田一を演じさせていただくことへの喜びが、ふつふつと湧きあがってきました。
奥 僕くらいの世代では、『八つ墓村』になじみのない人も多く、僕自身もお話をいただくまでは見たことがありませんでした。でも、調べてみたら、繰り返し映像化されてきた伝統ある作品ということで、今までの『八つ墓村』を作り上げてきた方たちへのリスペクトを込めて臨めたらと思いました。
-誰もが知る名作への挑戦ということで、プレッシャーを感じることはありませんでしたか。
松也 今回は、『呪怨』シリーズや『犬鳴村』(19)などの大ヒット作を送り出してきた清水崇監督が手掛けるとお聞きして、『八つ墓村』をきっと新しい切り口で創造してくれるはず、と期待していましたので、不安はありませんでした。僕は監督の世界観についていけば間違いないだろうと。
奥 僕は最初、プレッシャーを感じていました。でも、台本を読んでみたら今の時代にふさわしい意義のある作品だと思えたので、自分のできることをやろうと気持ちを切り替えました。おかげで、肩の力を抜き、リラックスした状態でクランクインを迎えることができました。
-どんな点が今の時代にふさわしいと感じたのでしょうか。
奥 「人間の恐ろしさ」が『八つ墓村』のテーマの一つでもあります。劇中には人々が扇動されていく集団心理の恐ろしさを描いたシーンもありますが、そういう部分は今も昔も変わらず、むしろ SNSが普及した現代の方が、皆さんの共感を呼ぶテーマではないかと感じました。
-名探偵・金田一耕助といえば、モジャモジャ頭によれよれの袴姿がこれまでの定番ですが、今回は一味違った姿で登場するのも注目ポイントですね。
松也 金田一耕助といえば、石坂浩二さんや古谷一行さんのイメージが強いので、そのイメージに引きずられないように、どちらかというと“普通の人”を目指しました。その中でも、人と違った視点を持つ風変わりな部分が垣間見えたらと。そういう意味では、いかに個性を出すかということよりも、僕自身が感じるものを大切にして、素直な感覚で臨もうと。清水監督も、癖やしぐさなどは、僕自身の個性を生かしたいとおっしゃっていました。そういうことを踏まえ、今回は舞台が現代ということもあり、袴姿に下駄という従来のイメージから脱却し、現代的でありながら独特のセンスを持った服装になりました。
-奥さんが演じる井川辰弥は劇中、松也さん演じる金田一と行動を共にすることになります。演じる上でどんなことを心掛けましたか。
奥 辰弥は序盤、無気力で感情もあまり表に出さない青年として登場しますが、金田一さんと一緒にいるうち、徐々に人間らしさを取り戻していきます。だから、僕が普段、松也さんと接しているときと同じような感覚で臨むことを心掛けました。
-お二人は今回が初共演だそうですが、そういう金田一と辰弥の関係をどのように作っていったのでしょうか。
松也 僕のクランクインが、ロケ地の岡山でちょうど奥さんや堀田(真由/森美也子役)さんと3人のシーンでしたので、初日の撮影が終わった後にみんなで食事に行きました。そこで楽しく過ごしたおかげで、グッと距離が縮まりました。撮影が休みの日は、一緒に倉敷観光に出掛けたりもして。しかも、食事は同じお店に何度か通ったのですが、気づいたら奥さんは、そのお店のご主人と大の仲良しになっていて(笑)。
奥 地元の皆さんに、とても親切にしていただきました。
松也 奥さんは、社交的だよね。地元の方にものすごくなじんでいましたし。
-劇中では、主要な舞台となる田治見家の屋敷や鍾乳洞などが不気味な雰囲気を盛り上げ、岡山ロケの効果が存分に発揮されていますね。
松也 とても雰囲気のある場所で、お芝居の上でも非常に助けられました。歴代の『八つ墓村』も同じ場所で撮影されてきたとのことで、その余韻のようなものを感じました。
奥 田治見家として使わせていただいたお屋敷自体が歴史ある建物だと伺っていたので、今までの「八つ墓村」の歴史も重なり、あの場所で撮影できることは、すごくありがたかったです。屋敷の内部は京都の撮影所のセットですが、先に岡山でその雰囲気を感じていたおかげで、お芝居もやりやすかったです。
-そうやって完成した映画をご覧になった感想はいかがでしたか。
松也 自分で言うのもなんですが、ラストまで本当にあっという間でした。それが嬉しかったです。一瞬もトーンダウンするところがなく、終始面白くて。それは、清水監督やスタッフの皆さん、共演者の皆さんが一丸となって取り組んだ成果で、改めてこの作品に関われたことをうれしく思いました。
奥 僕にとって、撮影の3カ月間は極上の時間で、映画を見ながら、そのときのことを思い出していました。松也さんをはじめ、堀田さんや滝藤(賢一/田治見久弥・要蔵の二役)さん、高島礼子(田治見小竹・小梅の二役)さんなど、毎日色々な先輩方とお芝居できたことが、本当に楽しくて。20歳(撮影当時)で、こんなに素晴らしい俳優の皆さんとお芝居できる機会はなかなかありません。幸せな3カ月で、まるで自分が皆さんを独り占めしたような気分でした(笑)。
-本作を経験して、繰り返し映像化される『八つ墓村』の人気の理由をどのように感じましたか。
松也 普段は、自分とは縁遠く感じている根源的な恐怖を身近に感じられるところが、多くの方を引き付ける理由ではないでしょうか。物語自体はフィクションですが、実在の事件をヒントにしている分、説得力もあります。家族間の問題や集団心理の恐ろしさなども、この作品ではエンターテインメントとして派手に描いているだけで、誰もがどこか思い当たる怖さがある。その絶妙なあんばいが、大きな魅力だと思います。
奥 僕も渥美清さんが金田一を演じられた野村芳太郎監督の『八つ墓村』(77)を拝見しましたが、それがあの時代にふさわしい作品であることに気づき、常にその時代に合った「八つ墓村」が作られてきたことを知りました。今回の『八つ墓村』も、SNS全盛の現代に通じる人の怖さが描かれています。そんなふうに、それぞれの時代に合わせて映像化できることが、長年愛されてきた理由ではないでしょうか。これからもきっと、時代に合わせた『八つ墓村』が生まれていくに違いありません。
(取材・文・写真/井上健一)






