「A&HCI(Arts and Humanities Citation Index)」に収録されている、英国の「The Journal of Modern Craft」に掲載されました。

米・ニューヨーク近代美術館(MoMA)に収蔵されている「日本製の瓦を用いた灰皿」を手がかりに、1960年代の日本モダンデザインの海外展開を紐解いたキムリー・ソンア准教授と松葉勇輝講師の共同研究論文が、英国・Taylor & Francisが発行する査読付き国際学術誌「The Journal of Modern Craft」に掲載されました。

▲(左から)キムリー准教授と松葉講師

第二次世界大戦の終結から20年近くが経ち、日本が復興から高度経済成長へと移り行く中で、日本の手工芸品を対象にした対米輸出の実態が判明する一方、日本のモダンデザインが日米の経済戦略の中で海外展開していく過程が明らかになりました。  

共同研究論文のタイトルは「Promoting a New Wave: Deciphering the “Bonniers Japan” Mark and Unravelling the Promotion of Japanese Modern Design in 1960s America(新たな潮流を生み出す:“Bonniers Japan”の刻印から読み解く、1960年代アメリカにおける日本のモダンデザインの普及)」です。「Art Across Cultures」の研究者であるキムリー准教授と、陶芸を専門にする松葉講師が、互いの専門性を生かした共同研究の成果が実を結びました。 

共同研究論文が掲載された「The Journal of Modern Craft」は、クラフト(工芸)をテーマにした2008年創刊の査読付き国際学術誌です。単なる「手工芸」にとどまらず、デザイン、建築、現代美術、民芸、新しいメディアなど、幅広い領域と関わる文化的・社会的な実践としてとらえているのが特徴です。

■灰皿を手がかりに1960年代の日米交易をひも解く 

MoMAが所蔵する日本製の瓦を用いた2点の灰皿は、民藝運動に参加した建築家がデザインし、香川の瓦職人が制作したものです。しかし、MoMAの記録には「Bonniers International Japan」による制作と記載されていました。 

これに疑問を抱いたキムリー准教授が、灰皿の底面に残された「Bonniers Japan」の刻印を手がかりに、松葉講師と共同研究を進めました。香川県で作られた製品が、どのような経路をたどってニューヨークに渡り、MoMAのコレクションに収蔵されたのかという点にも関心を持ちました。製造者周辺へのインタビューとともに、当時実施されていた日本手工芸品対米輸出推進計画「マル手」、輸出振興策、日米間の文化交流などを調査した結果、香川県で作られた地域工芸品が、輸出業者によって戦略的にアメリカへ紹介され、市場に流通したことが明らかになりました。 

決め手となった「Bonniers Japan」の刻印は、1960年代に高まっていた「Made in Japan」の人気を背景に、ニューヨークの輸入業者が日本製品を米国市場で販売するために意図的に用いたものでした。こうした事例から、日本のモダンデザインが日米関係や経済戦略の中で海外へ展開していった過程が判明しました。

▲研究の手掛かりになった日本製の瓦を用いた灰皿(香川県の桜製作所で)

香川県の桜製作所を訪問し、聞き取り調査を行いました。MoMA収蔵の灰皿に似た試作品を含め、同じタイプの灰皿もここで確認されました。文献に記録されている収蔵品からは、品評会で製品がA~Dのカテゴリーに等級分けされ、そのうち輸出に適した製品だけが海外へ出荷されていたことが分かります。

■MoMAの所蔵品から始まった3年間の研究 

この共同研究は投稿から査読、修正を経て掲載が決定するまで約3年を要しました。キムリー准教授は「この研究は国際的に意義があると考え、初めから国際学術誌への掲載を目指していました」と話し、「時間がかかった分、決まった瞬間の喜びと達成感は非常に大きなものでした。この成果は私一人の力ではなく、本学のIRI(国際文化研究所)共同研究支援を活用できたことや、松葉先生と互いの専門性を生かしながら協働できたことが大きな原動力となりました」と振り返ります。


▲研究の進捗の状況などを共有しながら入念に研究を進めました

2人は毎週議論を重ね、キムリー准教授は文献調査や枠組みの構築を、松葉講師は技術面の検討や関係先への調査を担いました。企業の活動や製品の流通経路を示す一次資料が断片的にしか残っていなかったため、それらを確認してつなぎ合わせるのはパズルのような作業で、非常に時間がかかったと言います。 


▲フィールドリサーチに訪れた香川民芸館では、「瓦の腰掛け」が展示されていました。MoMA収蔵の灰皿と同じデザイナーがデザインし、同じ職人が制作したものです。
キムリー准教授は「特に松葉講師による工場への聞き取り調査は、文献だけでは分からなかった決定的な手がかりとなりました。お互いの異なる専門性を補い合うことで、一人では発見が難しかった新たな視点や資料を見つけ出すことができたと感じています」と共同研究の意義を語りました。




■現代の地域文化・デザインのあり方へ 

1960年代は海外市場を意識した「アウトバウンド」型の輸出政策が重要でしたが、現代においては訪日外国人を対象とした「インバウンド」の視点が不可欠です。キムリー准教授は「今回明らかになった輸出促進の仕組みを出発点とし、地域の文化や歴史をいかに文化的な商品として外国人に伝えていくか。現代の地域文化とデザインのあり方を探求していきたい」と今後の研究についても話しました。 


▲IRI言語・文化研究フォーラムで研究成果を発表する松葉講師
キムリー准教授と松葉講師の共同研究は、「讃岐民具連の活動によって制作された陶磁器のマーケティングについて」というテーマで、2022年に関西外大の「国際文化研究所(IRI)共同研究プロジェクト」に採択されました。そして2023年2月に開催した「第9回IRI言語・文化研究フォーラム」では、MoMAが所蔵する香川県の地域工芸品「瓦の灰皿」を基に「Bonniers Japan」の意味を探りながら、日米間の輸出振興や文化交流についての調査結果を発表しました。



共同研究の要旨は、以下の出版社URLから閲覧できます。
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/17496772.2025.2675091

【お問い合わせ先】
関西外国語大学 広報部
電話: 072-805-2817(日・祝除く午前9時~午後5時)
E-mail: press@kansaigaidai.ac.jp

関西外国大学

公式サイト https://www.kansaigaidai.ac.jp

▲

「GO FOR it! 語学の、その先へ。」
関西外国語大学は、世界55カ国・地域の432大学(2026年9月現在)に広がる海外ネットワークを活かし、年間約1,300人の学生を海外へ送り出しています。大阪府枚方市にある2つのキャンパスでは年間約1,100人の留学生を受け入れており、日常的な国際交流が行われています。

語学力をベースに、文化や政治、経済など「+α」となる多様な専門分野を学ぶ教育体制を整えています。学生個々人の興味・関心に応じた、米国公認会計士の資格取得をめざす教育プログラム「USCPA Pathway Program」などの多様な学修を展開。学生は語学の先にある専門性を身につけ、これからの時代と社会の要請に応える確かな力を育んでいきます。
企業プレスリリース詳細へ
PR TIMESトップへ