今回は1980年代を強く意識した音楽映画を2本紹介しよう。公開中の『ピッチ・パーフェクト』は、音楽プロデューサーを夢見る女子大生のベッカ(アナ・ケンドリック)が、ひょんなことから大学のアカペラ部に入部し、風変わりで個性的なメンバーと共に大学アカペラ界の頂点を目指すというストーリー。
2012年に製作された本作の日本公開は少し遅れたが、ケンドリックが劇中で披露するプラスチックのコップをリズミカルに動かしながら歌う「カップス」という演奏方法は動画サイトで評判を呼び、日本のテレビ番組などでも紹介された。
そんな本作の見どころは、大会はもちろん、ユニバーサルのトレードマーク音楽がアカペラで歌われる冒頭、男女アカペラ部のオーディション風景、80年代の女性歌手の曲に限定した歌のしりとり合戦など、全編の音楽がほぼアカペラで統一されているだけに、曲自体の魅力や歌声が持つパワーをシンプルに感じることができるところ。
また、劇中にジョン・ヒューズ監督、モリー・リングウォルド主演の『ブレックファスト・クラブ』(85)が象徴的に引用されているように、“ブラット・パック”と呼ばれた当時の若手俳優たちが出演した青春物や、高校の合唱部を舞台にしたテレビドラマ「glee/グリー」をほうふつとさせるところもある。
アカペラを媒介として、学園コメディーの要素と団体競技物の要素を合体させ、ヒロインの恋と友情を描きながら、ラストの大会をクライマックスとするという流れはまさに青春映画の王道だ。
一方、7月10日公開の『踊るアイラブユー』は、南イタリアのプーリアで英国人の姉妹が同じ男に恋をして…という恋のバカンスを描いたミュージカル。
オープニングの空港でのマドンナの「ホリデイ」にはじまり、ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースの「パワー・オブ・ラブ」、ヒューマン・リーグの「愛の残り火」、そしてホイットニー・ヒューストン、シンディ・ローパー、デュラン・デュラン、ワム!…と、80年代のヒット曲が全編を彩る。登場人物のその時々の心情に合わせた曲選びと配列がお見事。あらためて字幕で詩の内容を知り、思わず目からうろこが落ちるところも。
また、ハリウッドの伝説的な振付師バズビー・バークレーが演出した群舞や、水着の女王と呼ばれたエスター・ウィリアムズの水中レビュー、ボリウッド=インド映画の群舞、オリジナルのミュージックビデオなど、さまざまな映像を参考にした多彩なダンスシーンも見どころ。こちらは『ピッチ・パーフェクト』とは一味違う、作り込まれた音楽の魅力が存分に味わえる。
こうした映画には、リアルタイム世代には懐かしさを感じさせ、若い世代には新鮮に映るという効用がある。(田中雄二)