『マッドマックス/サンダードーム』(85)以来、30年ぶりに“狂気=マッド”の世界に戻ってきたジョージ・ミラー監督の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が20日から公開された。
石油も水も尽きかけた未来世界。愛する家族を奪われ、本能だけで生きながらえている元警官のマックス(トム・ハーディー)は、資源を独占し、暴力で民衆を支配するジョーの軍団に捕らわれる。何とか脱出したマックスは、ジョーに反逆を企てたフュリオサ(シャーリーズ・セロン)らと共に、ジョーの軍団に戦いを挑む。
オープニングからいきなり目まぐるしいアクションが繰り広げられ、一気に異世界へと引きずり込まれる。そして二輪、四輪入り乱れての激しいカーバトルを軸に、すさまじいばかりのバイオレンスシーンが展開し、CGではない生身を使ったリアルなアクションとミラー独特の乾いた世界観に目を奪われる。
オーストラリア出身のミラーは、医学部を卒業し、救急救命医として働いたこともあるという、異色の経歴を持つ映画監督。自国で撮った『マッドマックス』(79)と『マッドマックス2』(81)の世界的なヒットを経て、スティーブン・スピルバーグに招かれてハリウッドに渡り『トワイライトゾーン/超次元の体験』(83)を共同監督した。
以後、息子のために難病の治療法を探る両親の姿を描いた『ロレンツォのオイル/命の詩』(92)、子豚を主人公にしたファミリー映画『ベイブ』(95)、ペンギン一家を描いたアニメーション『ハッピー フィート』(06)などを監督し、『マッドマックス』シリーズのバイオレンス世界からはすっかり離れた印象があったが、70歳を迎えて本家帰りをしたばかりではなく、さらにパワーアップしていたのには驚いた。ミラーいわく「パワーの源は好奇心」だそうだ。
さて、オリジナルの『マッドマックス』は、オーストラリアの広大な原野を舞台に、暴走族に妻と息子を殺された警官マックス(メル・ギブソン)の復讐(ふくしゅう)を中心に描いた“男の映画”だったが、今回は女戦士役のセロンの活躍が目立ち、2代目マックスのハーディーはいささか影が薄い。これは30年という時代を経た男女間の変化を象徴しているのか、それとも新たなシリーズ化への布石なのだろうか。ミラー自身は「マッドマックスは一種の寓話(ぐうわ)であり、神話的な物語の原型」だと語っている。(田中雄二)