バンドマン同士の横のつながりが強くなった時代
藤谷:もはや毎年恒例になりつつある、「ウレぴあ総研」のヴィジュアル系シーン総括座談会です。
今年は雑誌「ROCK AND READ」の編集長の吉田幸司さん、DJ・ラジオパーソナリティの浅井博章さん、そしてブロガー・ライターの神谷敦彦さんをお招きして行いたいと思います。
2018年はhideさんのアニバーサリーイヤーということもあって、hideさんの映画やイベント、TV番組など、改めてhideさんの功績を振り返るコンテンツも多かった1年でした。
その他にはlynch.が幕張メッセワンマン公演を成功させたり、2度目のLUNATIC.FESTが開催されたり、ToshlさんやYOSHIKIさんらのバラエティ出演も目立っていたように思います。
単刀直入にお伺いしますが、今年はどんな年でしたか?
吉田:2018年は印象に残るツーマンライブが多かったですね。R指定が”首取り”と銘打って、先輩に挑む果たし状ツーマンシリーズ(※1)をやったり、DEZERTもLM.Cやlynch.とツーマン(※2)していた。世代の違うバンドが真剣勝負しているのが刺激的で面白かったな。
下の世代のバンドが臆することなく上の世代のバンドと真っ向から戦うというのがいいし、後輩に対して容赦しないMUCCやlynch.を見ることができたし(笑)。
※1「R指定主催果たし状ツーマン企画」
5月から6月にかけて、R指定が東京・TSUTAYA O-EASTにて、Plastic Tree、A9、lynch.、LM.C、MUCCとそれぞれツーマンを行った。
※2 DEZERTは「【This Is The “FACT”】-EXTRA-」にて、己龍、lynch.、LM.Cとツーマンライブを行った。
藤谷:今年はアルルカンもlynch.とツーマンライブ(※3)を行いましたね。中堅どころとされるバンドが若い世代と共演するようになった感はありますね。
※3 6月にlynch.とアルルカンによるツーマンライブ「laughing in the dark」が開催された。
神谷:2016年のVISUAL JAPAN SUMMIT以降、ヴィジュアル系シーン全体が再統一されているじゃないですけど、集まるようになってきた流れはある。
2016年にはミヤさん主宰のCOMMUNEもありましたし、活動期間が長い世代が音頭をとっていたのが、徐々に次の世代にも広がってきて、次の世代がヴィジュアル系を盛り上げ始めている。2016年からの流れが継続されているように思います。2018年はBugLug主催のバグサミもありましたしね。
浅井:昨今は昔と比べて、明らかにヴィジュアル系バンド同士の横のつながりが強くなっているのは感じています。昔はバンドマン同士が友達であっても対バンは中々成立しなかった。
ある程度シーンの中で頭一つ抜けてくると、「今の若いのと俺たちを一緒にしないでほしい」みたいな、後輩を相手にしない時期があったと思うんです。最近は自分たちへのリスペクトを表明するバンドを素直に認めている傾向にあると思います。
吉田:00年代までは雑誌の取材でも、自分たちが影響を受けたバンドの話になると、洋楽のバンドはいいんだけど、邦楽のバンドになるとオフレコになるケースが多かった。「Xが好きです、LUNA SEAが好きです」みたいなところはNGになっていた。それがいつの時期からか言えるようになったんですよね。
昔は、自分たちがオリジナルだというプライド、意識があったから、堂々と言えなかったのかもしれない。あるいは、かつては憧れていたといえ、今は同じ土俵に立っているとライバル視していたのかも。
浅井:本人たち云々というよりは、レコード会社や事務所から止められていたケースも多かったと思いますよ。実際ヴィジュアル系ではないアーティストが「LUNA SEAが好き」みたいなことを言っていたから、番組で「あの人たちLUNA SEA好きなんだって」と言及したら、あとからクレームが来たことがあって(苦笑)。
藤谷:イメージの問題でNGだったと。
浅井:そういうことですね。偉大なのはGLAYとL’Arc~en~Cielで、あの頃バンドやってた子は、全員どっちかのコピーバンドはやってるから。つまり、全ジャンルのロックバンドがヴィジュアル系からの影響を公で言えるようになった。
藤谷:LUNATIC.FEST(※4)でもTHE ORAL CIGARETTESの山中さんもMCで「こっちの畑(ヴィジュアル系)」からの影響を公言されていましたね。
※4 2018年の6月23日、24日の2日間に渡って「LUNATIC.FEST2018」が幕張メッセにて開催された。
浅井:もちろんヴィジュアル系の人だって、リスペクトを口にするようになった。その結果、シーン全体が風通しがよくなった感はあるかもしれない。世間のヴィジュアル系に対する風当たりは10年前と比べたら遥かに弱いですし、シーン全体が世間から認知されているというのも大きいかもしれない。
藤谷:とはいえ、レジェンド世代は確固たる存在感を出していますが、一方でインディーズの方を見ると……、世間からは見えづらくなっているなと。「本当に好きな人」以外には今どんなバンドが居るのか? ということが知られていない印象があります。
浅井:今年起きた出来事の中で僕が色々振り返って、非常にひとつ象徴的だなと思ったのが、R指定のボーカルのマモくんがソロライブで、自分の切った髪の毛をビニール袋に入れて配布したんです。SNS上でもかなりざわついたわけで。
あれは自分のファンに向けてやったわけで、ファンの子たちが喜んでいるのであれば、外野がとやかく言うことではないというのが大前提なんですが、周囲は「キモい」というじゃないですか。でもR指定のファンの子は、熱狂的に喜んでいる。これが今のヴィジュアル系を代表するR指定というバンドと、バンギャルという個性的な人たちの、ひとつの形なのかなと思ったんです。
藤谷:大人や世間から眉をひそめられるのがヴィジュアル系みたいなところあるじゃないですか。真っ黒な服を着て地元を歩いているだけで後ろ指をさされる的な。
浅井:今のヴィジュアル系はちょっと病んでいる、いわゆる「メンヘラ」というか、一般社会の常識とは違う、変わった性質の人が多いということを象徴するような事件だったのかなと。
吉田:ただ、最近の若手を見ると、同じような写真を撮って、同じような曲を作って、同じようなパフォーマンスをするバンドばかりだなと感じることが多いんです。残念ながら。
音源でちょっと気になって期待してライブに行くと、がっかりしてしまう。明らかにギターシミュレーターで作った音、エア感のない打ち込みっぽいドラム、同じ煽り方、同じ加工のアーティスト写真、それじゃ広がらないでしょうっていうのはずっと思っています。
神谷:バンドの公式サイトも全部同じシステム会社なのか? ってくらいフォーマットが似通ってしまっていますね。ゴールデンボンバーのウィキペディア風のサイトは4人のキャラクターに沿いつつ、最近ファンになっても情報を辿りやすいです。
GRIMOIREはパソコンの公式HPに飛んで「disco」をクリックしようとすると「おはなし」に変わったりと、グローバルメニューといった細部も世界観に沿ったサイトになっています。そういうところまで手が込んでいるバンドは気になってしまいます。