「真空チルドルーム」がなくなった日立の冷蔵庫

日立アプライアンスが1月24日に発表した冷蔵庫の新製品「ぴったりセレクト R-KX/KW57K」シリーズでは、大きなサプライズがあった。庫内にある専用ケースのハンドルを持ち上げると「ぷしゅ~」と鳴ることでおなじみの、日立製冷蔵庫の看板機能ともいえる「真空チルドルーム」がなくなっていたからだ。

正確には、真空チルドルームは同日発表された定格内容積735Lと615Lの大容量冷蔵庫「R-WX74K/62K」の搭載だけに絞られた。これらは、いずれも幅880ミリや幅750ミリの大型タイプ。売れ筋となる幅685ミリ以下のスリムタイプから、真空チルドルームはなくなった。

真空チルドルームは、空気が密閉された状態で独自の真空ポンプを使って機械的に空気を吸い出すことで、庫内を約0.8気圧に下げる。0.8気圧の「真空」環境をつくることで、食品の酸化や刺身などの栄養素の減少が抑えられる。開けた時に「ぷしゅ~」と鳴る音が、真空状態から開放される効果音のように響くのと、真空=酸化しにくいという、ユーザーに分かりやすい機能だった。人気の機能を外すことは、日立にとって大きな決断だったに違いない。

新製品では、新たに「まるごとチルド」や「特鮮氷温ルーム」機能を搭載することで食材の鮮度を保てるようにしている。

まるごとチルドは、冷蔵室を独立して冷却できる日立ならではの「冷蔵室独立冷却」構造に、冷蔵室内の各棚に水分を多く含むうるおい冷気を送り込めるように三方に分岐する「新風路構造」を採用することで、庫内の温度を素早く約2℃にしてその温度をキープすることができる。

特鮮氷温ルームは、肉や魚などの食材に冷気を直接当てないようにして乾燥を抑え、かつ凍らないマイナス1℃ほどで間接冷却する。刺身などであれば約3日間、加熱調理用の肉や魚で7日間の鮮度を維持できる。

下2段を冷凍も可能、そのときの野菜は?

ぴったりセレクト R-KX/KW57Kシリーズの発売は、2月下旬から3月中旬にかけてと少し先なので、年間消費電力量などを含む最終仕様がまとまるまで調整中だが、発表会ではこれらの新機能によって鮮度について「真空チルドルームとそん色ないレベルにしたい」と説明していた。

それを補うのが、長く使っている間に変化する家族構成やライフスタイルに合わせて冷蔵庫の下2段を冷凍・冷蔵・野菜に切り替えられる「ぴったりセレクト」という製品名にもなっている機能だ。

例えば、忙しい共働きや育ち盛りの子どもがいるファミリー層では下2段ともに冷凍にしたり、年配層では野菜の出し入れがしやすいように野菜室は上段、冷凍室は下段にしたりと自在に切り替えられる。

内閣府の耐久消費財の買い替え状況によると、冷蔵庫の平均使用年数は12.2年(18年3月調査)と長い。使っている間に子どもが大学や就職で独り暮らしをするようなったり、働いている家族が転勤で単身赴任になったりと、時間の経過と共に家族のライフスタイルは変わる。それに応じてレイアウトを変えられる、ユーザーベネフィットの高い機能だ。

下2段を冷凍室として使用する例は極端かもしれないが、その場合、野菜は最上段の真空チルドルームがなくなった冷蔵室に入るようにした。

真空チルドルームに慣れ親しんだユーザーにとっては少し残念に思うかもしれない。しかし、その看板機能をなくしてまでも日立が「ぴったりセレクト」に賭けた決断の大きさが伝わる。(BCN・細田 立圭志)

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