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 主要登場人物はたった1人というユニークなサスペンス劇『THE GUILTY/ギルティ』が2月22日から公開される。

 警官のアスガー(ヤコブ・セーダーグレン)は、ある事件をきっかけに、現場を退き、緊急通報指令室のオペレーターを務めていた。ある日、車で誘拐されたという女性からの通報を受けたアスガーは、電話の声と音だけを頼りに、事件解決に挑むことになる。

 本作は、スウェーデン出身のグスタフ・モーラーの長編監督デビュー作となったデンマーク映画。トラウマを抱える主人公が、姿の見えない相手と電話を通じて接触するという点では、ハル・ベリーが主演した『ザ・コール 緊急通報指令室』(13)と重なるところもあるが、こちらは、画面に映る主要登場人物はアスガーのみ。しかもカメラは緊急通報指令室から一歩も外に出ない、というところが新鮮に映る。

 また、内と外で舞台は異なるが、主人公以外の人物が、ほとんど前面に出てこないサスペンス劇という点では、スティーブン・スピルバーグ監督の『激突!』(71)をほうふつとさせるし、基はラジオドラマ、外に出られない主人公、電話を使ったサスペンス劇という共通点がある『私は殺される』(48)のことも思い出させる。

 ただ、本作がそれらの映画と大きく異なるのは、モーラー監督が「音声から思い浮かぶイメージは人によって違う。だから一人一人の観客が、異なる人物像を想像する」と語る通り、外の場面や回想を全く入れずに、アスガーと電話の声だけで押し切った“我慢の演出”が、観客の想像力を刺激しながら、ミスリード(=誤解)によるサスペンスを生み出すところだ。セーダーグレンの見事な一人芝居に加えて、含みを持たせたラストシーンも心に残る。

 そんな本作のリメークが、ジェイク・ギレンホール主演ですでに決定したようだが、果たして“我慢の演出”も踏襲されるのだろうか。興味深いところだ。

 ところで、本作は、全てがパソコン画面で展開する『search/サーチ』(18)とともに、米サンダンス映画祭で観客賞を受賞したが、両作はユニークなアイデアと脚本の良さで勝負した小品の映画として共通するものがある。

 サンダンス映画祭の観客賞受賞作は、初期の『セックスと嘘とビデオテープ』(89)『ワン・カップ・オブ・コーヒー』(91)『ピクチャー・ブライド』(95)に始まり、最近も『セッションズ』(12)『フルートベール駅で』(13)『セッション』(14)と佳作ぞろい。この映画祭の観客賞は信頼に値する。(田中雄二)