真城さんが次のメトロノームを鳴らすと、四重奏とともに「ドアをノックするのは誰だ?」。大きく異なるイントロストリングスのアレンジが、後半でオリジナルをなぞるさまが美しく、“時を刻む”今回のテーマを改めて反芻する。そして「いちょう並木のセレナーデ」。オープニングで教えてもらったたくさんの合図が、ひとつずつ私たちを促す。その合図に合わせて、オザケン本人が手を翻し「カモン!」のジェスチャーを、手を耳にあて「聴いてるよ!」のジェスチャーをしてみせる。高い天井に、私たちの歌が響く。
「次の曲も、知ってる人は歌ってください」といい始まったのは「今夜はブギーバック」。パーカッションというよりは和太鼓といいたい打楽器を真城さんが打ち、グロッケンを奥村愛さんが、ぶっとい低音を中村キタローさんが鍵盤で振動させる。そしてラップというよりは長唄のような、メロウでこぶしの利いた小沢健二のスチャダラパーのパート。光の粒に煽られてオペラシティ全体がダンスフロアへと変身する。
最後には「♪あの大きな心/その輝きにつつまれた」と「あの大きな心」を熱唱し、大きな大きな拍手を受けながらメンバー紹介へ。「小走り」で始まる“豊かさ”がテーマの朗読を経て、遠い嵐の音とともに「あらし」、そして前回のツアーで発表された「いちごが染まる」。“植物を育てるのが何よりも好きな、年老いた母に捧げます”というこの曲、フルバンドのアーバンサウンドもよかったが、甘美なストリングスが声に纏ってオザケンの歌そのものをオーケストラルに響かせる今ツアーのアレンジも素晴らしい。
スクリーンには花火の映像。遠い遠い花火の残像が、ゆっくりと何度も映し出される。なかで「それはちょっと」。こちらのストリングスバージョンも秀逸だ。大きな拍手を背に一度ステージの全員が退場をする。
誰もいなくなったステージには水の音が響き渡る。ステージの一角が青く照らされ、小さな海が描き出される。
衣装を変え再登場した小沢健二が、「ビリーヴ」で始まる“信じる”がテーマの朗読を始める。背後の影絵は、彼が「ビリーヴ」というたびに流れ星を輝かせる。朗読を終え、ギターを奏で始めるオザケン。
静寂とともにメトロノームが時を刻む。「天使たちのシーン」だ。カルテットがやわらかに織り成す中心で、「神様を信じる強さを僕に/生きることをあきらめてしまわぬ、あきらめてしまわぬように」と歌い、10分ほどの演奏を終えると「次の曲は“どこ行こうどこ行こういま”という言葉を覚えといてください」といって、「おやすみなさい、仔猫ちゃん!」のイントロが始まる。スクリーンの合図で立ち上がり、拍手を送るオーディエンス。
女の子→男の子→三階席→二階席→一階席→オペラシティの順番で、さっき覚えた「どこ行こうどこ行こういま」の合唱を行う。歌い終えて、「今日はどこかから旅をしてきたひと?」と、東京在住以外のひとを確認すると、実に半分ぐらいのひとが手をあげていた。「日曜日だからそうじゃないかなーとは思ったんだけど」という小沢健二。
ひふみよウェブで「今回のツアーは壁画」だと発言していた。「その場所の一部として、ある」、つまり東京という街のなかに、ともに存在する大きな絵である、と。その「壁画」を一目みようと、遠くから旅する人たちに対して「申し訳ない」と前置きしながらも、「でも昨年のツアーで、どこの街に行っても、必ず首都圏から来てる人たちがいた」という実感を通して、「あの人たちの場合、旅する過程もコンサートの一部になっているから」「自分らのツアーなんですよね、あれ」と発言している。
つまり、デッドヘッズよろしく旅行の過程を楽しみながら音楽を体験する、「音楽と一緒に暮らす」人たちなのだと。本日このコンサートを楽しんだ旅人たちにとって、東京の街はどんなふうに鳴っているだろう。あふれる幸せを祈るよ、なんて、思わずにいられない。