合図で着席し「夜と日時計」、そのまま「大人の世界」という朗読にて飼っていたインコの物真似を披露。「年をとって分かることは増える。昔は分からなかったことが、分かるようになる。つらいことも、よいことも。そうやって時を経て、たまにはこうやって、忙しいなか、こんなに素敵な場所で、集まって騒げる大人になったことを、祝いたいと思う」と締め、「東京恋愛専科・または恋は言ってみりゃボディー・ブロー」へ。

背景では東京タワーのまわりでたくさんのメトロノームが時を刻んでいる。「♪それでいつか僕と君が齢をとってからも~」の節を何度も繰り返して客席からワーキャー興奮の声が上がると、いっそう大きな声で同じフレーズをもう一度繰り返す。「♪行きましょなんつってオペラシティ!」と歌っては直後の歌詞を間違えてはにかみながら、何度も何度も、歌に生命を吹き込むように同じフレーズを繰り返す。

興奮が最高潮に達したオーディエンスとともに♪バーラーバーのパートを合唱して曲を終え、大きな大きな拍手に包まれると、間髪いれずにイントロのストリングスが。「僕らが旅に出る理由」。美しいストリングスと光の交差するマジック。さらに興奮するお客さんたち。

歌詞における女の子のパートを女の子が(ちょっと歌詞間違えちゃいました)、男の子のパートを男の子が歌う。過去をなぞっていまを歌う。小沢健二のラストのビブラートとともに、いっそう大きくなる拍手と歓声。歌い終えてガッツポーズをとる小沢健二。会場中がものすごいテンションに包まれている。

ストリングスはとまらないまま「強い気持ち・強い愛」へ。とにかく全盛期の大ヒットソングたちを、時を経て20年後の小沢健二が、当時よりエモーショナルに歌い上げる様が、熱く、強い。まさしく、いま、だからこそ歌える歌だ。いまの小沢健二にしか歌えない、いまの小沢健二が歌っている歌だ。

彼のファンはみんなそうだろうけど、表舞台から姿を消したオザケンのことを思うと、切なくて、彼の曲がまったく聴けない時期もあった。いま、こんなふうに、顔をくしゃくしゃにして必死になって、歌っている彼の姿を眺めていると、それだけで胸がいっぱいになる。

大きな声援を受けて、よりいっそう強くなる小沢健二の歌。「♪長い階段をのぼり 生きる日々が続く」で会場ぜんぶの照明が点灯する。小沢健二とともにお客さんほぼ全員が歌ってるのがわかる。ここにあるのは、思い出の中の懐かしい歌たちでなく、今を生きる、希望の歌たちなのだ、と、鳴り止まない拍手と歓声のなかで思う。

合図でイスに座るオーディエンス。「春にして君を想う」。背景にはむらさき色うすべに色の花が咲き乱れる。スカーフを結びなおし身だしなみを整えてから朗読、「人の体、街の体」というタイトルで「インド映画の好きなところ」について語ったのち、自分の曲のなかでテンポ130のものを「“130グルーヴ”と呼んでいる」ということ、それは、ギターで作曲をしている自分の、痩せている体型の自分の、日本で生まれた自分の、体のなかから必然的に生まれてくるものとし、“130グルーヴ”がどういうものか「わかりやすいように、僕とキタローさんが最初にスタジオでやるように、やってみます」と「暗闇から手を伸ばせ」。

背景の影絵からは、ギターから生まれていく言葉や鹿、猫が舞っている。演奏はとまらず「思いっきり!」の合図とともに「愛し愛されて生きるのさ」。拍手も歓声も合唱もいっそう大きくなる。当時のPVやオフショット映像が背景に映し出される。若い、可愛いオザケンだ。髪の毛をかきあげるしぐさは、いまもまったく変わっていない。「けどそんな時はすぎて、大人になりずいぶん経つ」。今、前の前にいるひとは、強く、歌を届けようと、生きている。

「♪You've got to get into the moon」のコーラスが「♪わ・れ・ら、時をゆく」に変更され歌われたところで過去の映像はとまり、いまへと移行する。刻んだ時を愛しながら、いま生きる喜びを確かめる。ように、もう一度オザケンが「誰かのために祈るような、そんな気にもなるのか」と強く言葉にする。