米アカデミー賞をはじめ、フランス産の白黒サイレント映画が世界の映画賞を席巻している。CGや3Dといったデジタル全盛の映画界において、異例の快進撃が意味することとは?

『アーティスト』が見せた映画のさらなる可能性

昨年5月のカンヌ国際映画祭に出品されて一躍注目を浴び、先のアカデミー賞では作品賞をはじめ主要5部門に輝くなど、ほぼ1年がかりで映画界のトップに上り詰めた感がある話題のフランス映画『アーティスト』。なにが話題になっているかと言うと、CGや3Dが大躍進を遂げたデジタル全盛の現代に作られたとは信じられない、白黒のサイレント映画だからである。

これまで映画というメディアは、足し算の原則で発展を遂げてきた。映画が誕生した19世紀末には色も音もストーリーすらなかったものが、劇映画という形式を手に入れ、やがてトーキーになり、カラー化され、スクリーンが大型化し、いままた3D化の波が押し寄せている。しかし『アーティスト』は、そんな映画史そのものに逆行するかのように、はるか昔に滅びたサイレント映画の手法を復活させたのだ。

いや、「滅びた」は言い過ぎた。'76年には『メル・ブルックスのサイレント・ムービー』があり、フィンランドのアキ・カウリスマキ監督も'99年に『白い花びら』を撮っている。しかし前者はサイレント映画自体をネタにしたパロディであり、後者はアンチコマーシャリズムの極北とも言うべき実験的な小品だった。つまり『アーティスト』こそが、映画がトーキーに移行して以降初めて、メジャーなフィールドで勝負をかけた本格的なサイレント映画であると言っても差し支えなかろう。