参考にした同書は、「日刊ゲンダイ」に掲載された貧乏芸人のインタビュー集。元芸人の松野大介さんが4年をかけて取材した芸人の苦労話を一冊にまとめたものです。登場するのは、サンドウィッチマン、ナイツ・塙、バイきんぐ、たんぽぽ、コウメ太夫、スピードワゴン・小沢……というメンバー。

そんな中でも、かなり貧乏な生活を送っていたという小沢。しかし、そのおかげである意味たくましく育ったようです。

コートにボタンを1つつけたら1円の収入になる内職をしていた小沢の母。そんな母の教育方針は「全部自分で作る」でした。

例えば、欲しいマンガがあれば、友人に借りて本の上にわら半紙を置き、透けて見えるものを描き写すのです。そうすることで、オリジナルのマンガを手に入れていたのです。「当時のキン肉マンは体で覚えている」とは本人談。また、クリスマスに欲しいものの願いを伝えた小沢の枕元には、翌朝、粘土が置かれていました。確かにこれがあれば何でも作れますね。

なにより悲しかった思い出はこれ。小学校のクリスマスイベントでのプレゼント交換。小沢家の判断は「買って用意する」ではなく「自分で作る」。ですので、小沢はオリジナルのプレゼントを作ることに。

用意したのはティッシュ箱。細く切り、2本をジグザグに交差させてスプリングを作ると、その上に「メリークリスマス」と書かれた紙細工のサンタを付けて、そのままティッシュ箱の中にいれました。つまり、ビックリ箱を作ったのです。上のふたを開けると、スプリングを利用して「メリークリスマス」と紙サンタが出てきます。

そして、イベント当日。教室で輪になってのプレゼントの交換です。音楽が流れ、止まった時のプレゼントが自分のものになります。リズムに乗って横の人に手渡しされていく小沢のビックリ箱。と、音楽が止まった時にそれを持っていたのは、当時小沢が好きだった女の子でした。

小沢の期待もむなしく、女の子は「なにこれ?」と声を上げてしまいました。女の子は、何も間違っていません。なにせ何も包装されていない丸出しのティッシュ箱です。むしろ驚いて当然。

しかし、小沢も黙っていられなかったようで、自ら「開けてみれば?」とアドバイスしました。しかし、開けたところでカバンの中で押しつぶされたスプリングは全く機能せず、サンタも出てこない。「気持ち悪い!」と女の子が言ったのに対し小沢が「俺、それ欲しい!交換して」と、自分のプレゼントと交換。もう、皆にバレバレですよね。

「僕はつぶれたビックリ箱を持ち帰った。すっごい悲しかった。貧乏というと、この話を思い出しますね」芸人貧乏物語

何とも悲しいエピソードではありますが、こういった辛い経験も含め、お笑い芸人はお笑いに変えるスキルがあるのでしょう。

「イエスの生まれた日にノーとは言わせない」

いまなら、こう切り返して、ビックリ箱を意中の相手に渡していたことでしょう。

<参考書籍>
『芸人貧乏物語』松野大介著(講談社)