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 シルベスター・スタローンの代表作『ロッキー』シリーズの新章となる『クリード チャンプを継ぐ男』が公開された。

 今年は、マッドマックスにターミネーターに恐竜たち、イーサン・ハントにジェームズ・ボンド、そしてルーク・スカイウォーカー&ハン・ソロ&レイア姫…と、いろいろなキャラクターがスクリーンに戻ってきたが、そのしんがりを務めるのがロッキー・バルボアだ。

 ボクシング界から長く離れ、今はイタリアンレストランを営むロッキーの前に、往年の宿敵アポロ・クリードの遺児アドニスが現れ、トレーナーになってほしいと頼み込む。

 オリジナルの『ロッキー』(76)から40年。かつてのトレーナーのミッキーのように、老いて脇に回ったロッキー=スタローンの姿に、時の流れを感じさせられて胸が熱くなる。

 三流ボクサーが無敵のチャンピオン、アポロに挑む姿を描いた『ロッキー』は、アメリカ建国200年の年に公開され、大ヒットを記録。当時、売れない俳優だった若きスタローンの出世作ともなり、「やったらやれる」「諦めるな」というアメリカンドリームの象徴とされた。

 以後シリーズ化され、『ロッキー2』(79)ではアポロを破りチャンピオンとなったロッキー。だが、『ロッキー4 炎の友情』(85)ではアポロを死なせ、ロッキーもレーガン政権下の“力による平和”を主張するアメリカの象徴へと変化した。スターとなったスタローン自身も『ランボー』シリーズの影響もあり、筋骨隆々の肉体を誇示。共演したブリジット・ニールセンと再婚した。

 そんな元気だったロッキーも『ロッキー・ザ・ファイナル』(06)では愛妻エイドリアンを亡くし、息子にも離反され孤独に陥る。そして本作では、孤独と老いに加えて病まで得る。その間、スタローン自身も浮き沈みの激しい俳優人生を送ったが、本作では脇役としてなかなかいい味を出した。

 つまり、ロッキーというキャラクターの変容は、スタローン自身はもとより、ひいては人間の一生、アメリカという国の現代史とも重なるところがある。だからこそ人々はロッキーというキャラクターに共感を覚えるのだ。

 本作の監督と主演は、黒人青年が白人警官に銃殺された実話を映画化した佳作『フルートベール駅で』(13)のライアン・クーグラーとマイケル・B・ジョーダン。

 全体的にはオリジナルへの愛や懐かしさを感じさせる一方、音楽をラップ中心のブラックミュージックにし、アドニスの恋人を自己主張をする女性として描くなど、“今の映画”として仕上げている。

 練習や試合の場面も含めて、「やったらやれる」「諦めるな」という熱き“ロッキー魂”が、タイトル通り、アドニスへしっかりと継承されるところがうれしい。ジョーダンのリアルなファイトシーンにも拍手を送りたい。(田中雄二)