「原作の未来に近づけようとは思わなかった。自分なりの、内気なミクを演じたいと思ったから。

でも、内気な役を演じるのは初めてだったし、あまり笑わない子だったので、演じているうちにどこで笑っていいのか分からなくなっちゃったんです(笑)。

そのときに、この子は本当に笑っちゃダメなのかな?ってもう一度考えて。

未来はロボットじゃないし、普通の子と同じように笑うんじゃないかな? と思ったから、『Fire Flower』をみんなで歌う花火のシーンでは笑いました。楽しんでいいような気がしたんです」

メガホンをとったのは、『リュウグウノツカイ』(14)で脚光を浴びた新鋭ウエダアツシ。

©2015 halyosy、藤田遼、雨宮ひとみ、スタジオ・ハードデラックス/PHP研究所/『桜ノ雨』製作委員会

「監督は私がお芝居をしているときもずっとそばで見てくださって、アドバイスもしていただきました。私はこうしたいんですけど、監督はどう思いますか?って自分の考えをストレートにぶつけることができたのもよかったです。

最後の合唱をする前の舞台のそでで、部長に初めて自分の想いを言葉にするシーンでも、私の考えを伝えることができましたね」

本作の最大の見どころは何と言っても合唱のシーンだが、「合唱の練習で何がいちばん大変でした?」と聞くと、「声!」という思いがけない言葉が返ってきた。

「歌はもともと得意じゃなくて。高い声を出すとたまに裏返っちゃうんです(笑)」

しかも、「南くんの恋人~my little lover」の撮影と重なったために、共演者のみんなとの合唱の練習にはあまり参加することができなかった。

「でも、足を引っ張りたくないから個人レッスンをお願いして。

皆さんに追いつこう、追いつこうって必死だったんですけど、その個人レッスンの先生には本当にお世話になりました。

そしたら、その先生が東京国際映画祭の六本木ヒルズのアリーナで合唱を披露するときの指揮をしてくださって。あのときはみんなとまた歌えたっていう嬉しさもあったけど、先生の顔を見た途端に、安心したのか、なぜか泣いちゃったんですよね(笑)」

エンディングではソロで歌うパートも。

「あの日も先生がそばにいてくださいました。ただ、カラオケでは歌うけど、自分ではみんなに聴いてもらえるような歌声ではないと思っていたので、ソロで歌うところは恥ずかしかったし、すごく緊張しました」

だが、たぶんその状態だったら、聴く人の心には届かなかったに違いない。

劇中にも「人を楽しませるには、自分が楽しまなきゃ」という印象的な台詞が出てくるので、それに絡めて「楽しめるようになりました?」と聞くと、「はい。楽しかったです!」と笑顔が帰ってきた。

「慣れてきたら、すごく楽しかったです。途中から恥ずかしがらずに歌うことができました」

本作は合唱シーンだけではなく、未来の激しくざわめく感情を自身の肉体運動と表情だけで伝えるシーンがいっぱいある。中でも、携帯にかかってきた父からの電話で入院中の母親の病状が急変したことを知り、夜の商店街を全力で走るシーンは観る者の胸に迫る。

「あのシーンは並走する車から撮影しているんですけど、もう大変でした。何回走ったんでしょう? すっごい走った(笑)。

気持ちもなんだか大変なことになっているし、体力的にもしんどいし。でも、あそこは未来がいちばん自分自身と葛藤しているところなので、いいシーンになったなと思います」