さて漫画で有名なセリフが、「きみのためなら死ねる」です。これは青葉台学園の真面目な学生、岩清水弘(いわしみず ひろし)が、早乙女愛を思って口にする言葉ですが、こうした作品によくあるように、彼が報われることは徹頭徹尾ありません。そして名門高校の優等生だった岩清水は、愛を追っかけて花園実業高校に転校までしてしまいます。つまりセリフのように死ぬほどではないものの、結構無茶なことを繰り返しているんです。昨今の政治家には全く見られない有言実行は素晴らしいことですが、彼のご両親はさぞ心配したのではないでしょうか。
この『愛と誠』が映画となって6月16日に公開予定です。
キャストは、太賀誠を妻夫木聡が、早乙女愛を武井咲が演じます。18歳の武井咲はともかく、31歳の妻夫木がガクランを着て高校生かぁ、と思うんですが、テレビドラマの学園ものでも20代30代が当たり前のように学生服を着てますから、今更どうこう言うこともなさそうです。それどころか48歳の伊原剛志がライバルの番長(もちろん高校生)である座王権太(ざおう ごんた)を演じているんですからね。
映画は基本的に漫画のストーリーを追いかけながら、再会の場面などを一部変更して、独自の演出を加えています。この辺りは賛否の分かれるところでしょう。原作ものでありがちなのが、余計な手を加えてしまい、「原作そのままに映像化して欲しい」と思われることです。映画では、マイケル・ジャクソン『Beat It』ばりのミュージカルシーンが出てきます。「激しい恋」(歌:妻夫木聡)、「空に太陽があるかぎり」(歌:斎藤工)、「あの素晴らしい愛をもう一度」(歌:武井咲)、「夢は夜ひらく」(歌:大野いと)、「曙」(歌:一青窈)、「愛のために」(歌:市村正親)などの名曲が登場、キャストが歌って踊ります。もちろん漫画には太賀誠や早乙女愛が歌って踊る場面などはありませんから、全て映画独自の演出です。映画公式サイトの予告編などを見ると、楽しいことは間違いなさそうです。後は原作ファンに気に入ってもらえるかどうかですね。
漫画のストーリーは、太賀誠や座王権太ら不良高校生の喧嘩騒動だけでなく、政財界を巻き込んだ汚職事件が発生、これに早乙女財閥までもが巻き込まれていきます。予想できるかもしれませんが、それを解決に導いていくのが、いち不良学生の太賀誠で、まさに作り上げたような結末へと流れ込んでいきます。これも最初に書いたように、物語として必要性のあるドラマチックな展開なのでしょう。そして早乙女愛と太賀誠の心が通じ合い、熱い抱擁とキスをしてハッピーエンドになります。そこだけ見ればバンバンザイなのですが、その後こそ描かれていないものの、明らかにバッドエンドになることが漫画の読者には分かっています。
最初に同類の作品として取り上げた『男組』でも、仲間(もちろん同年代の高校生)が次々に殺されていき、最後は主人公の流全次郎(ながれ ぜんじろう)も、日本を牛耳る影の総理のところへ短刀一本で突っ込んでいきます。そこには銃を持ったボディガードが待ち構えていますので、もちろん……なのでしょうけど、その後は描かれていません。
最初にひと括りにしてしまいましたが、最近のヤンキー漫画とかつての不良学生漫画とでは、連載時の世相や雑誌の編集方針など、異なる要素があったのでしょう。そうしたところを踏まえつつ、漫画と映画、2つの『愛と誠』を楽しんでみてはいかがでしょうか。