小山田茂誠を演じている高木渉

 豊臣の大軍に包囲された北条氏政(高嶋政伸)に降伏を薦めるため、小田原城に潜入した真田信繁(堺雅人)。降伏反対派の兵士たちの襲撃を受けた窮地を救ったのは、あの男だった…。

 「真田丸」第23回「攻略」のラストに登場した信繁の義兄・小山田茂誠の姿に、思わず喝采を送った視聴者も少なくないはず。第6回以来、久々の登場ながら、口元を覆うひげが印象的な人懐こい顔を忘れた者はいないだろう。

 茂誠を演じている高木渉は、これまで声優や舞台俳優として活躍しており、大河ドラマどころか実写作品自体が初めての出演。にもかかわらず、序盤から主君・武田家を裏切った縁戚の小山田信茂(温水洋一)と妻の松(木村佳乃)の生家・真田家との板挟みになって苦悩するなど、見せ場たっぷりの役どころを、表情豊かに演じて強い印象を残した。

 だからこそ、4カ月の間を空けての再登場も成功したと言える。しかも、主人公の窮地を救うというおいしい役回りだ。

 出演オファーを受けた際も、「(高木本人の)実直な感じで演じてほしい」と言われたそうで、役にピタリとはまった幸せなドラマ初出演と言えそうだ。

 高木同様に、大河初出演で存在感を示しているのが、豊臣秀次役の新納慎也。これまで秀次は、残忍な“殺生関白”として描かれることも多かった。ところが本作では、最新の調査に基づき、権力志向が弱く、芸術や自然を愛する心優しい人物として登場。舞台ではエキセントリックな役が多い新納だが、それとは対照的に、自らの後継者として目を掛ける叔父の秀吉(小日向文世)の期待に応えきれない秀次を好演している。

 沼田城の領有を巡って北条と真田が秀吉の前で舌戦を繰り広げた第22回「裁定」では、秀吉の代理を務めて真田に軍配を上げたものの、それが秀吉の真意とは逆の結論になってしまうくだりは象徴的だ。秀吉の妻・寧(鈴木京香)の侍女を務めるきり(長澤まさみ)に思いを寄せ、小田原城を包囲した陣中で「1月早く来れば、桜が満開だったはず」と語る姿からも、非情な権力者・秀吉との違いが浮き彫りになる。

 俳優がドラマや映画に出演する場合、どれだけ存在感を残せたかということが、しばしばその後のキャリアを左右する。わずかな出番で強い印象を残してブレークすることも少なくない。いわゆる、“キャラが立つ”という状態だ。

 そういった意味では、高木も新納も十分に成功していると言えるだろう。すでに高木は「毒島ゆり子のせきらら日記」(TBS系)に出演し、7月からはフジテレビ系の連続ドラマ「営業部長 吉良奈津子」への出演も決まっている。「真田丸」のために伸ばしたというひげも好評で、今後はさらに実写作品への出演が増えそうな雰囲気が漂う。

 一方の新納も、豊臣家の後継者問題が表面化してくる今後が、さらに大きな見せ場となるはず。非業の運命をたどる秀次をいかに演じるのか。期待して見守りたい。

 (ライター:井上健一):映画を中心に、雑誌やムック、WEBなどでインタビュー、解説記事などを執筆。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)