黒沢清監督が放つサスペンス・スリラー映画『クリーピー 偽りの隣人』が公開されている。前川裕氏の同名小説を原作にオリジナル展開で描かれた今作は、ある夫婦が“奇妙な隣人”への疑惑と不安から深い闇に引きずり込まれていく圧倒的な恐怖を描く。 “クリーピー”とは、「ぞっと身の毛がよだつような、気味が悪い」という意味をもつ。
「6年の片思いを経て、ついに夫になることができました」開口一番、本作主演の西島秀俊が明るい口調で竹内結子との共演作『ストロベリーナイト』に触れると、竹内も「私もいつかはと思っていましたよ(笑)。でも、既にちょっとした倦怠期なので、もう少しふわふわとした感覚は味わってみたかったです」といたずらっぽい笑みを浮かべた。
黒沢監督作品4度目の出演となる西島は、元刑事の犯罪心理学者・高倉を演じ、初出演の竹内が妻・康子を演じる。「黒沢組はワクワクするんです」という西島。「監督の演出や指示を、役者もスタッフもみんなが楽しみにしています。それにロケ地やセットも面白くて、今回は監督から珍しく『どうしようかな、西島さん、セット見ます?』って嬉しそうに言われました。本番のときに初めて見せるつもりが、ついつい見せたくなってしまったんでしょうね。本当に素晴らしい現場でした」と『LOFT ロフト』以来10年ぶりとなる黒沢組を振返る。
一方で、専業主婦を演じた竹内は、「こんなにも常に誰かの側にいる役は初めてでした。台本には康子の細かい描写が書かれていなくて、監督から『夢を見ている感じで』と言われたんです。ああ確かに夢の中って、突然画面が切り替ったり、意図しないことが起こっていても受け入れているなと、すとんと腑に落ちました。それに、監督の演出方法が催眠術みたいなんです。誰にも大きな声をあげないし、『はい、いきますよ』って監督が言ったかと思うと、気がつくと終わっているんです。 スタッフさんもこの作品を撮りたくて毎日来ている感じが伝わってきて、良いチームだなってしみじみと感じました」と話す。
背筋がゾクリとするストーリー展開にも関わらず、ベルリン映画祭で上映された際には、笑いや犯人への声援が起こり、会場は大いに盛り上がったそうだ。「私も『いいぞ!もっとやれ!』って見てしまっていて、私って残酷だなって思ったんですが、皆さんにも自分の不気味さに気付いてもらいたいです。『ほら、あなたもでしょ』って(笑)」(竹内)
「黒沢監督は現代の空気を切り取る方だと思います。フィクションにも関わらず、今の空気を色濃く作品に反映しています。本作は現代の家族の形を映し出した、極上のサスペンス・スリラーです」(西島)
『クリーピー 偽りの隣人』
公開中
取材・文・写真:小杉由布子