桜井和寿 写真:石渡憲一
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2012年5月10日。『MR.CHILDREN TOUR POPSAURUS 2012』の真っ只中に訪れた、バンドのデビュー20周年記念日。1992年5月10日にアルバム『EVERYTHING』でデビューしてから、早い段階でモンスター・バンドとなったMr.Children。バンドの20年は、移り行く時代の像を力強く、鮮やかに映し出した――だからこそ、いつまでも色褪せることを知らない――名曲群とともに国民的ロック・バンドとしての立ち位置を浮動のものにしてきた時間でもあった。換言すれば、Mr.Childrenの20年は、比肩なき市民権を得たロック・バンドとして豊かなポップ・ミュージックのあり方を絶えず示してきた時間でもある。

ただ、ある時期においては、バンドの道のりが決して順風満帆といえるものではなかったのも事実だ。軽やかなラヴソングを唄うバンドから、時代を唄うバンドへとシフトしはじめた『Atomic Heart』で爆発的なセールスを記録したことで、バンドのソングライターである桜井和寿は出口の見えない戸惑いや葛藤を抱え込んだ。


彷徨する欲望の拠り所や厭世観が皮肉にも『深海』(1996年リリース)というコンセプチュアルなロック・アルバムの傑作を誕生させ、それ以降も桜井の内面的な心情を切迫した温度で浮き彫りにしたような楽曲をバンドが鳴らせば鳴らすほど、リスナーは強く、深く、自らの物語と同化させた。

ある時期のMr.Childrenにとって、リスナーの存在はバンドの負荷であると同時に、自分たちを音楽に向かわせる動力でもあるという、いわば二律背反のような存在だったのではないかと思う。2001年リリースの“肉”と“骨”のベスト・アルバムは、そんな季節の代表曲が多数収められていた。