THE ORAL CIGARETTES
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  • 宮本浩次
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新型コロナウィルスの影響であらゆることが一変した2020年。もちろん音楽シーンにとっても大きな変化と困難に直面する年となった。とりわけ、ライブハウスを主戦場に活動してきたバンドたちにとっては「ライブができない」という一点において、両手両足を縛られたような状態で活動しなければならない、とても苦しい1年だっただろう。

不要不急といわれ、ライブハウスが悪者扱いされるようなふざけた状況のなか(もちろん、その状況はまだ終わっていないが)、腐ることなく果敢に戦い続けるバンドたちの存在に、勇気づけられた人も多かったはずだ。ライブができないという状況のなかでも、すばらしい作品はたくさん生まれた。オンラインライブなどの新たな表現の形に挑戦して、幅を広げたバンドも数多くいた。そんな2020年のシーンを、個人的視点で振り返ってみたい。

2020年のロックシーン、まずどでかい狼煙を上げたのは前年の大晦日に紅白歌合戦への初出場も果たし、名実ともに国民的人気バンドへのステップを上ったKing Gnuだ。1月にリリースされたアルバム『CEREMONY』は、楽曲を書く常田大希の個人的視点、バンドが培ってきた音楽的な進化、もちろん個々のメンバーの圧倒的なスキル、そしてスタジアム級の観衆をロックすることをあらかじめ企図しているかのようなスケールの大きなサウンド。まさに彼らにとっての集大成であり、シーンの景色を一変させるパワーをもったアルバムで、実際に上半期のトップセールスという結果でそのパワーを証明してみせた。そのまま春にツアーをやっていたらどんな風景が生まれていたのかと思うと返す返すも残念だが、配信ライブなどを経て11月から12月にかけてついに開催されたアリーナツアーで、彼らはきっちり落とし前をつけてくれた。筆者は武道館公演を観たが、バンドのストーリーをきっちりと伝えつつ、その先をはっきりと見せつける、見事なステージだった。

そのKing Gnuに並んで、上半期個人的に強烈な印象を残した作品が、マカロニえんぴつのアルバム『hope』だ。前年の躍進を決定づけるクオリティの高い楽曲が詰まった作品で、かつ、緊急事態宣言下で混沌とした当時の状況に対するメッセージとしても、しっかり時代とリンクするアルバムとなった。彼らもライブができない状態でも配信ライブやSNSを駆使してファンとのコミュニケーションを図り、秋にはメジャーデビューという形で新たな一歩を刻んだ。少しも止まることなく未来に向かって進み続けた姿勢そのものが、まさに文字通りの「hope」だったと思う。

同じ4月にリリースされた赤い公園のアルバム『THE PARK』も力強く未来の始まりを告げる作品だった。ボーカル石野理子が加入後、時間をかけて作り上げてきたバンドの新たなコンビネーションとグルーヴが花開いた傑作。生まれ変わったようなフレッシュさと躍動感を感じさせたアルバムは、きっとバンドが進んでいく上でも確かな土台となっていくはずだ。

音楽的な進化や提案という意味では、気を吐いていたのがTHE ORAL CIGARETTESだろう。ベストアルバムを経て満を持してリリースされた新作『SUCK MY WORLD』は、ヒップホップやゴスペルなどの音楽を貪欲に取り込みながら、ロックバンドの領域を思いっきり拡張してみせた。彼らがほんとうの意味で唯一無二の存在となったことを証明する、現時点での最高傑作だと思う。

新しいライブの形、それぞれが出した「答え」

緊急事態宣言も明け、夏前ごろからは配信ライブも増えていく。それぞれのバンドがそれぞれのやり方で、オンラインで音楽を届ける方法を模索していた。たとえば7月に梅田シャングリラから配信ライブ「電波鼠」を開催したキュウソネコカミ。彼らにとって今年は10周年、かつ「ねずみ年」という記念すべき1年だったのだが、コロナでほとんどの予定が吹っ飛ぶなか、オンラインならではの演出も含めて、お客さんありきではないキュウソ流エンターテインメントを表現してみせた。

フレデリックのアコースティック配信ライブ「FABO!! ~Frederic Acoustic Band Online~」も印象的だった。ライブハウスで盛り上がれないからこそ、違った切り口で音楽の豊かさと楽しさを伝える、そんな意思が貫かれていたし、何よりメンバー自身が楽しそうに演奏しているのがよかった。

SUPER BEAVERは新木場スタジオコーストでのライブを「LIVE document」と銘打ってひとつの「作品」として提示してみせた。彼らは12月には横浜アリーナからの無料配信ライブも開催したが、いずれも観客の目の前でライブを行うことができない状況のなかで自分たちに何ができるのかを考え抜いた「答え」だった。そんな、ライブの現場で届けることに命を懸けてきたバンドたちの試行錯誤の軌跡は、今後のエンターテインメント界においても大事な経験になっていくはずだ。

2021年要注目の若手バンドたち

2021年のシーンはどうなるのだろうか。状況がすぐに劇的に好転するとは思えないし、しばらくはコロナと付き合いながら手探りで進む状況が続くのだろう。そんななかで希望ともいえるのが、今年続々とメジャー進出を果たした若手バンドたちだ。

自分たちの音楽を「誰に」「どう」届けるかということに、より意識的になっているアーティストが増えている今、メジャーなんて今さら関係ないね、という価値観すらもはや古いと筆者は考えている。ディープなファンに向けコアな音楽を作り続けるという選択肢も、メジャーレーベルの力を借りてより多くの人に届けるという選択肢も、等しく選べるだけのリテラシーと意思を、新たな世代のバンドたちには強く感じるからだ。

再びメジャーと契約するという決断をしたSUPER BEAVERしかり、マカロニえんぴつしかり、そしてハンブレッダーズやFOMARE、KALMA、Attractions、kobore、リュックと添い寝ごはん、Tempalayに羊文学などなど。確かな実力をもったバンドがメジャーシーンでどんな活躍をするのかに期待したい。