現在公開中の映画『銀魂 THE FINAL』。
1月8日に全国で封切られると、全国映画動員ランキング(興行通信社調べ)で12週間連続首位を独走していた『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』を制して、1位を獲得。
アニメ『銀魂』史上最大の大ヒットとなるスタートを記録した。タイトルどおりファイナルとなる本作で描かれるのは、原作のラストをベースとしたエピソード。
2019年に約15年に及ぶ連載は完結を迎え、まさに本作は『銀魂』の総決算となる作品だ。
その公開を記念して、歴代の担当編集者に原作者・空知英秋と『銀魂』についてたっぷりと語ってもらった。
参加者は、初代担当・大西恒平(『週刊少年ジャンプ』メディア担当編集長)、2代目担当・齊藤優(『週刊少年ジャンプ』副編集長)、4&6代目担当・本田佑行(『週刊少年ジャンプ』編集部主任)、5代目担当・松尾修(マンガMee編集部)、7&10代目担当・内藤拓真(『週刊少年ジャンプ』編集部)、8代目担当・真鍋廉(『Vジャンプ』・『最強ジャンプ』編集部)、9代目担当・井坂尊(ジャンプコミック出版編集部・『ONE PIECE』メディア担当)の7名。
舞台裏でも、『銀魂』本編さながらの笑いとバトル(?)が!?
ここでしか明かせない裏話の数々を、10大トピックとして紹介!!
1.デビューの段階で年齢詐称疑惑!?
まず語ってもらったのが、空知と初代担当編集・大西の出会い。
空知のデビュー作となったのは、第71回(2002年6月期)天下一漫画賞佳作受賞の『だんでらいおん』 (『週刊少年ジャンプ』2002年42号掲載)。
見ためはイカつい天使連盟送迎部の天使2人組が、成仏できない幽霊をあの世に送るという物語で、すでにそこには2003年に同誌でスタートする『銀魂』(2004年2号)につながる味わいが。さて、その作品に対して、編集部内ではこんな驚きと疑惑もあったのだとか!?
大西 出会いは20年くらい前になるんですが、空知さんが漫画賞に応募されてきて、『だんでらいおん』という作品だったんですが、そのとき僕はまだ編集者として2年目で、賞を取った有望な新人を担当できる制度があったので、担当させてもらうことになりました。最初に会ったのはそれから半年後くらいですかね。
僕が北海道に行きまして、初めて会って……という感じでした。
最初からだいぶ老成した作風だったので、年齢をごまかしてるんじゃないかと編集部の皆が言っていて(笑)。
僕も怪しいなと思いつつドキドキしながら会ったんですが、本当に若者でした(笑)。
本田 『だんでらいおん』の(原稿の)裏に、「空知英秋(無職)」って書いてあったんですよね。すごく歴史を感じます。
大西 周りの人には誰にも言わずこっそり漫画を描いていたらしくて、自分の中でラストチャンスだと思ってたみたいで。駄目だったら就職しようと思ってたのが、入賞したからやってみようかっていう感じだったらしく、それで「無職」ってことだったのかと。
本田 マンガが賞に通らなかったら何するつもりだったんですかね!?
大西 何かしら普通の平凡な仕事をやってたんじゃないですかね(笑)。
2.編集者から見た空知英秋はどんな人?
謎も多い、作者・空知英秋。素顔に触れている編集者から見て、果たしてどんなキャラクターなのか。
いろいろ聞き出したかった中で、んっ? 気づけばいつしか話は原稿が遅いというテーマに!?
設問の答えは、「原稿が遅い人」ということでまぁひとつ……。
齊藤 器がちょーデカイっていう。ほかの作家さんだったらありえないんですが、一回、原稿が遅れて本当にヤバイときにアシスタントさんじゃなくて僕が「ザーン」とか書き文字を書いたんです。
最後に空知先生が原稿をチェックしてるときに、「おい! 誰だこの汚い書き文字!!」ってなって「僕ですね」って言ったら、「齊藤さんかよ! ……じゃあしょうがねぇな」って(笑)。
井坂 それ“器かデカイ”じゃなくて、“原稿が遅い”だけですよ。器じゃない(笑)。
真鍋 原稿の話で言うと、長時間待つということで僕らは現代の手塚治虫先生番だなと思っているんですが、『ブラック・ジャック創作㊙話~手塚治虫の仕事場から~』(※手塚治虫の創作の現場を描いた宮崎克・吉本浩二のノンフィクションコミック)の中で、原稿が上がらな過ぎて追い込まれた担当が、手塚プロダクションの壁を破壊するっていうシーンがあるんですが、ちょっとそれ、分かるなって(笑)。
井坂 だから仕事場の椅子が1個壊れてたんだ!?
真鍋 それは僕じゃない!(笑)
3.描いている本人がすなわち銀さん!?
一向に止まることのないばかりか、過熱する原稿取りの苦労話。しかしそれでも担当者たちが心折れないのは、上がってくる原稿の出来はもちろん、空知の人柄あってこそ!
本田 漫画家としてすごいところももちろんあるんですけど、人間味がすごく強くて。でもギリギリの締め切りの日は世界で一番嫌いになるんですよ。
井坂 分かる~(笑)!
本田 でも終わってボロボロになって原稿入れて、次の日打ち合わせに行って、「すみませんでした。今週はいけると思ったんですけどね。来週は頑張ります。飲みに行きましょう」と言われると、もう一回好きになっちゃうんですよね。来週は信じてみようかなと思うと、また裏切られるんですが(笑)。
真鍋 本田さんが言ってたように、次は信じてみようかなというのを毎週繰り返しながらやってた感じです。
井坂 信じてたの!? 僕は信じたこと1回もないですよ。絶対に終わらないと思ってたもん(笑)。
内藤 僕も信じてた派です。「大丈夫です。来週描くことは見えてます。描けばいいだけなんですよ」みたいな感じなんですけど、「描けばいいだけ」が長いっていうのが(笑)。
齊藤 本当に頑張ってくださっていることに関してはまったく疑いはないんですけど、読みが甘すぎるっていう(笑)。懐の深さみたいなものはすごいと思いますね。人たらしがすごいです。
松尾 人たらしがすごいですよね。
本田 だから銀さんなんですよ。
4.空知英秋のここがすごい!
編集陣から飛び出すトークはなんだかディスりばかり!?
いやいや、それだけぶっちゃけて語れるのも作家と担当の絆あってのもので、“『銀魂』魂”ある編集者たちゆえ。もちろん漫画家・空知英秋のその才能もちゃんと理解していて、こんな分析も……。
井坂 実はすごい理論派で、漫画も流行っているものをちゃんと読んでいて。「この作品はここがいい」っていう話を打ち合わせのときにもしていて、考えてるんだなって。
齊藤 (別作家の)新連載が始まったときも「これどうですか?」って聞くと、細かい話はなくて、言うことはシンプルなんですが、「これがこうだからこうじゃない?」ってめちゃめちゃ芯を突いていて。あれはすごいセンスだなって思います。
大西 客観視する力はすごいと思いますね。世の中のことをいつもずっと観察して、それを作品の中でキャラクター作りやストーリー展開に活かすという。プラスに解釈して言えば、そういうところに時間がかかって原稿が遅くなっちゃうのかなって(笑)。
5. 編集者なのに握手の行列ができた!
実は漫画の中にも登場している、歴代の編集者たち。
この座談会そのままに(!?)、毒を吐いたり、気を吐いたりする姿が内輪の小ネタやパロディで描かれていて、ファンにとってはおなじみの存在でもはや作中のいちキャラクター! 連載中には、こんな出来事も!!
真鍋 担当編集も作品の一部みたいになっていて。印象的だったのは、僕の担当時代に『大銀魂展』(2016~2018年)というのをやっていて、僕らはノベルティの名刺を作って入場のところで皆さんに配ってたんですね。 そのときに大西さんに握手の行列ができて。アイドルみたいでしたね(笑)。
大西 もちろんお願いされたからやってたんですけど、その後、それを見た誰かにSNSで「大西が調子乗ってる」とか書かれたりして、それを言ったら断るほうが調子乗ってるみたいじゃない?って、なんだか割り切れませんでしたけど(笑)。