一心不乱なマスターと相反し、ちっちゃいおばちゃんは客の「いじり」にも対応。
にこやかに酔っ払いの相手をしながらも手はとまらず
マスターのかけ声に絶妙の間合いで、串を運びネタを追加する。
たった二人きりなのに、完璧なフォーメーション。
して、一瞬として動きがとまらぬ神&ちっちゃいおばちゃんに、
「あの、」とか「こっちも」とか、「マス…」「すいま…」とか
客が声をあちこちからかける。
恐るべきことに、マスターは背中を向けていてもどこの誰から
声がかかったかわかり、それらをすべて忘れないという才能がある。
それだけではない。
こちらがしろタレ2本を頼もうと、振り向き様のマスターに
「っし…」と言った瞬間にもう、神は「はいよう~!」といいながら、
しろの串をバットから2本取り出したれつぼにつけたのだ…。
まさか? こころを読まれている?
こうなってくると、複数の人間の話を聞き分ける聖徳太子越えだ。
スーパー太子。
カウンターにつまれたプラスチックの白皿はタレ用、絵皿が塩用。
そして壁には「白いタオルは台拭き、赤いタオルはお手拭きに」と表示してある。
最低限の決められたルールの中で、神がこぐおんぼろボートに身をまかせ、
酔っ払い大海原へと旅立つ興奮としあわせ。
つけ加えると、マスターの声はとんでもなくいい。
井上陽水と「私のお墓の前で~」の歌手を掛け合わせたようなつやっぽい重低音。
ラジオもテレビも音楽もいらね、この声を肴に飲めるってものだ。
こうして連れの後輩男子と、串を片っ端から制覇し
とくにお気に入りのナンコツとしろは3度もリピートし、大瓶ビールは都合5本空けた。