『月刊!スピリッツ』に連載中の大童澄瞳の人気コミックを原作にしたテレビアニメーション「映像研には手を出すな!」が2020年1月5日深夜0時10分(関西地方は0時45分)からNHK総合で放送開始となる。本作では、「夜明け告げるルーのうた」(17)などで世界的に評価される湯浅政明監督の下、アニメーション制作を目指して“映像研”を設立した女子高生3人組の奮闘が、イマジネーション豊かな映像とともに描かれる。主人公・浅草みどりの声を演じるのは、連続テレビ小説「ひよっこ」(17)、「これは経費で落ちません!」(19)などで注目の若手女優・伊藤沙莉。テレビアニメの声優初挑戦となる本作に懸ける思いを聞いた。
-アフレコの様子を教えてください。
同じ映像研の3人娘を演じる田村(睦心/金森さやか役)さん、松岡(美里/水崎ツバメ役)さんと一緒にやらせていただいています。以前、声のお仕事をさせていただいたときは、1人でヘッドホンから流れてくる声を聴いてお芝居するというやり方だったので、生の声を聴きながらやれるのは心強いし、一緒にお芝居をしている感覚にもなれるので、楽しいです。
-3人一緒というのは、いかがでしょうか。
浅草氏はアニメだけじゃなく、機械についての難しい専門用語を早口でまくし立てる場面も多いんです。でも、3人一緒なので「意味分かりました?」みたいな話ができる。それが、すごく心強いです。収録の合間にそういう話をしていると、「今、映像研だったな…」と感じることもたくさんあって。田村さんが冷静に突っ込んでくると、「金森氏!」みたいな(笑)。お二人はものすごく優しくて、いろんなことを教えてくれますし。今度、親睦会をやる予定です(笑)。
-ご自身が演じる浅草みどりの印象は?
とてもかわいらしい女の子ですが、アニメ制作のことになるとプロ意識も高く、熱い気持ちを持っていてカッコいい。そのギャップが、演じていてすごく楽しいです。人とのコミュニケーションが苦手で、何かを演じないと自分の思いを伝えられないところも共感できます。私も、伝えたいことを砕けた感じで言ったり、おかしな言い方をしたりすることがあるので。そういう意味では、すごく寄り添える役だと思っています。
-演じるに当たっては、どんな指示が?
浅草氏が何かを演じているような話し方をするときは、音響監督さんから「ここは寅さんぽく」みたいなことをよく言われます(笑)。寅さん以外によく言われるのが、江戸っ子、西部劇、バナナのたたき売り…(笑)。とても分かりやすいディレクションで、それに沿ってやると浅草氏に寄っていくので、ありがたいです。
-テレビアニメの声優は初挑戦だそうですが、今まで声の仕事に対してはどんな印象を?
声のお仕事をしている方に対する「憧れ」みたいなものはずっとありました。「目指す」というよりも、手の届かないアイドルを拝んでいるような感覚で(笑)。海外ドラマなどの吹き替えは、人のお芝居に対してさらにお芝居を乗せるわけですから、壊すわけにはいきませんし、アニメの場合は自分たちでキャラクターを作り上げて、みんなの記憶に残るような声を出していかなければいけない。そういう意味で、私が今までやってきたこととは全くアプローチが違うので、すごいな…と。だから、「自分がやるなんて、おこがましい」とずっと思っていました。
-とはいえ、最近は声優をやられる俳優の方も多いですし、伊藤さんと仲のいい松岡茉優さんもやられていますよね。そういう姿を見て、どんなふうに思っていましたか。
「すごい!声優やってる!」と(笑)。本人に伝えたら、「激ムズだよ」と言われましたが、やりがいを感じている様子を見て、「いいな…」とも思っていました。私自身、どこでも声のことを聞かれるので、「そんなに特徴的なものなら、この声に合う作品と巡り合えないかな…?」という思いもずっと持っていましたし。だから、今回のお話を頂いて、本当にありがたかったです。
-実際にやってみた感想は?
今は昔よりも自分の声に自信が持てるようになりましたが、それでも「声オンリー」の仕事は、自分にとっては大きな挑戦です。アフレコの現場に行くときは、毎回、「お邪魔します。勉強させていただきます」という気持ちでいます。とはいえ、田村さんも松岡さんも作品を作る仲間として「一緒に頑張りたい」と思ってくださっているでしょうから、私がいつまでもそのままではきっとやりづらいはず。だから、「責任と自信を持って、しっかりやらなきゃ」という覚悟を持って臨んでいます。
-実写のお芝居との違いを感じる部分は?
私が普段やっているお芝居は、基本的には引き算です。ある程度、自分がプランニングしてきたものを現場でぶつけて、「もう少し削ろう」というスタンス。その方が、監督が求めている答えに近づきやすい。でも、アニメの場合は足し算だなと。自分の中で、「これは大げさだろうな…」と思っていることが、意外にOKだったりするんです。実際に映像を見ると、確かにそれがちょうどよくて。アニメならではの表現に関しては、リアルなだけでは伝わらない部分がたくさんあることを知りました。だから、自分が思っているよりも一個上のお芝居を心掛けて、常に声も張るようにしています。
-この作品では、3人の妄想を迫力満点のアニメで表現しているのも見どころです。例えば第1話では妄想の空中戦が描かれていますが、その効果音(SE)を皆さんが声で演じているのもユニークですね。
原作にも擬音が文字で書かれていますが、アフレコのときは、それを私たちが映像に合わせてしゃべるんです。例えば、走る場面ではずっと「タタタタタ…」と言っていたり…。声のお仕事をさせていただく機会も今まで多くありませんでしたが、SEは今後二度とない貴重な機会かもしれません(笑)。普通の芝居よりも指示が多いのでは…と思うぐらい、湯浅監督がこだわっていて、毎回、難しくもあり、楽しくもあり…という部分なので、ぜひ注目していただきたいです。
-それでは最後に、作品の見どころを。
映像研の3人は、童心を忘れず、ものすごい情熱を持って、自分たちがやりたいことを全力でやって、実現したい世界を追求していく。その姿を見ていると、心から「頑張ろう」、「楽しむって、カッコいいな」と思えるんです。それは、私たちのお仕事はもちろん、「何かを作る」ということに関しては、全て同じではないでしょうか。そういうモノ作りのカッコよさを感じて、映像研の3人と一緒に妄想の世界を楽しんでもらえたらうれしいです。
(取材・文・写真/井上健一)