伊呂波太夫役の尾野真千子

 好評放送中の大河ドラマ「麒麟がくる」に、また一人、個性的な登場人物が加わった。派手な衣装とメークが一際目を引く旅芸人一座の女座長・伊呂波太夫だ。戦災孤児だった幼い頃の駒(門脇麦)を育てた縁があり、各地の有力者に顔が利くことから今後、主人公・明智光秀(長谷川博己)とも関わっていくことになる。演じるのは、連続テレビ小説「カーネーション」(11)のヒロインとして知られ、多数の作品で活躍する尾野真千子。撮影の舞台裏や本作に懸ける意気込みなどを語ってくれた。

-第十回で、京の街を練り歩く形で登場しましたが、初登場の感想を。

 芸をするために京の街へ来るのですが、誰にもまねできないような異様な格好をしているんですよね。天狗さんのような10センチ以上もある高さの下駄を履いて。駒ちゃんや東庵先生(堺正章)とお芝居をしたのですが、早く走れなかったりして、一度下駄を壊してしまいました(笑)。衣装も、普段はシンプルな着物一枚ですが、旅芸人のときは着物を3枚ぐらい着ていますし。髪形もちょっと独特な感じなので、伊呂波太夫のユニークさを最大限表現するようにして、楽しみながら演じています。

-伊呂波太夫をどんなふうに演じていこうと思っていますか。

 伊呂波太夫は、諸国の有力者や京の公家にも顔が利く不思議な人です。ただ、内心では「この人たちからどれぐらいお金を取れるか」、敵と見られず「こいつは使える」と見てもらうために、いかにその状況をくぐり抜けていくかを常に考えている。どこへ行っても、誰に会っても、そういうふうに探りながら接している。だから、いろいろなことに役立つ“何でも屋”みたいな存在でいたいなと。私自身も、まだ役自体を探っている途中なので、そういう探るような芝居がちょうどいい感じになっているのではないでしょうか。ただ、そういう謎めいた部分だけでなく、人間らしさも少しずつ出していきたいと思っています。

-旅芸人という点で意識していることは?

 架空の人物の利点を最大限生かそうと思いました。歴史上の人物ではないし、旅芸人ということもあって、面白おかしく、思いきりやってしまおうと。色や着るもの、持つものなど、細かいことにあまりこだわらず、スタッフの皆さんが、面白くなるように作ってくれました。メークも、歌舞伎の方の眉毛を参考に、芸をしているときはきちんと描いて、普段は薄めにするなど、シーンによって使い分けています。旅芸人ということで、この時代にも華やかなもの、私たちがやっている芸能のような世界があったと、皆さんに知ってもらえたらいいですね。

-伊呂波太夫の個性的な衣装の感想は?

 色があまりに鮮やか過ぎるので、「追い掛けられたらすぐ見つかるだろう!」と突っ込みたくなりました(笑)。他の皆さんはそれぞれ決まったイメージカラーがありますが、伊呂波太夫は一つの着物に2、3色の色が入っています。それは、「どこにも染まらない」ということを表現するため、あえてさまざまな色を使っているんだそうです。だから、見ているととても楽しいです。そこには、色気や妖艶な雰囲気で人をどうにかするという部分だけでなく、伊呂波太夫のたくましさや、その他、いろいろなものが表現されているんだろうな…と。気持ちは衣装次第で変わっていくので、今は男でもなく、女でもないという感覚になっています。

-伊呂波太夫は主人公の光秀とも今後関わっていきますが、長谷川博己さんと共演した感想は?

 頼れる人です。以前ご一緒したときも頼らせていただきましたが、今回も…です(笑)。頼りがいがあるので、芝居だけでなく、何かと助けてもらっていますし。私はたまにポンと行って芝居をするだけなので、皆さんと過ごす時間は少ないのですが、そんなときでも現場に居やすくしていただいたり…。そういう面でも、長谷川さんには助けられています。

-駒役の門脇麦さんと共演した感想は?

 目力がすごい。吸い込まれそうな目をしていますよね。にらめっこをしたら、多分、私が負けるでしょう(笑)。駒と伊呂波太夫は、かつて一緒に過ごした時期があるという設定ですが、お芝居のときに目を見ていると、確かに、守りたくなる身内のような雰囲気があるな…と。そんなふうに感じます。

-これまで撮影した中で、楽しかったシーンは?

 駆け引きがあるシーンは楽しいです。頼まれたり、仕掛けてみたり…。第十三回の帰蝶とのシーンなども楽しかったです。逆に、普段のときの方が、伊呂波をどのように見せたらいいのか分からなくなります。駆け引きをしている場面は、企んだような顔をすればいいのですが、普通のときはどんな顔をしたらいいのかと。そっちの方が、気持ちの面で大変です。

-尾野さんは「麒麟がくる」の脚本家・池端俊策さんが手掛けた「夏目漱石の妻」(16)にも出演されていますが、池端脚本の魅力は?

 池端先生の時代劇のせりふは、スッと入ってくるんですよね。こういう時代の言葉は難しく、「何回かむんだ?」というせりふが多い中、池端先生のせりふは、自分の中にスッと入ってくるものが多い気がします。「夏目漱石の妻」もそうでしたが、覚えたせりふを言っているのではなく、出てきてしまうものに変わる。そんな感覚があるので、好きです。「これ、池端さんの言葉だな」とすぐに分かりますから。

-最後に、視聴者へのメッセージを。

 伊呂波太夫は架空の人物なので、歴史上の人物が「この人、きた!」という感じにはならないかもしれませんが、物語に新しい風を吹かせられれば…と頑張っています。ちょっと派手な人なので、「こいつは次に何をするんだ?」、「どういう役割をするのか?」と皆さんにも悩みながらご覧いただけたら。いろいろなキーパーソンに顔が利き、お金の動きも知っている人なので、私自身もこれからどんなふうになっていくのか楽しみです。架空の人物だからこそ、物語の中で鮮やかに色づいていけるようにしたいと思っています。ぜひ、温かく見守ってください。

(取材・文/井上健一)