織田信長役の染谷将太

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「麒麟がくる」。第十八回で織田信長(染谷将太)が弟・信勝(木村了)を暗殺し、続く5月24日放送の第十九回では、それを知った母・土田御前が、悲しみを爆発させる一幕が見られた。土田御前を演じる檀れいが、その場面に込めた思い、撮影の舞台裏を語ってくれた。

 信勝の亡がらを目にした土田御前が受けた衝撃について、檀は「何が起こったのか、頭の中で理解できませんでした」と語った。

 ただそれは、戦国の世に生きる母親の宿命でもあることから「血縁者同士で争うことも常である時代だからこそ、突然自分の子どもを失うかもしれない不安が付きまとっていました」と、ある程度覚悟はしていたらしい。

 それでも、「(亡くなった)信勝の姿を目にしたときは、ただただ涙が止まりませんでした」と、湧き上がる悲しみを堪えきれない土田御前の心情を語った。

 同時に、演じた檀自身も撮影の際は「大切にしていた信勝を失った悲しみで、本番のときに自分自身、胸が苦しく途中で呼吸ができなくなるほど、つらいシーンになりました」と当時の心境を打ち明け、「呼吸困難になるのは、自分の中では計算外でした」と告白。

 続けて「それほど土田御前として、信勝を心のよりどころにしていたし、大事に育ててきたので、自分の半身を失ったかのような苦しみを感じました」と、まさに役と一体化した演者としての思いを語った。

 その後、広間にたたずむ信長に厳しい言葉を投げつけてから両手で頬に触れ、「母も殺したのです…」と泣き崩れる。この場面については、「頬に触れるのは、私から監督に提案させていただきました」と舞台裏を明かした。

 そこに込めたのは、「信長も自分の子ですが、弟を殺してしまうような異質な存在である信長を産んだのは自分だということを、土田御前として認識したかった」という思いだったという。

 演じる上では、「いとおしく思っている信勝に触れるのと、怒りや憎しみ、悲しみで信長に触れるのとで違いが出せたら」という点を心掛けたという。

 さらに、「怒りや悲しみをぶつけるだけでなく、触れることによって、この親子の複雑さ、土田御前としてなぜこんな子が生まれてきてしまったのか、なぜちゃんと信勝のように育てることができなかったのかという思いが出せれば」と、「触れる」という一つの芝居に母親としての複雑な思いを込めたことを語ってくれた。

 そして、これが「土田御前と信長の決定的な絶縁のシーン」とのことで、「見ている方には“この親子もう駄目だな”と思っていただけるように演じました」と話を締めくくった。

 戦国を生きる人々の濃密な群像劇を描く「麒麟がくる」。その中で、今後主人公の明智光秀(長谷川博己)がどんな道を歩んでいくのか。中盤に差し掛かったドラマの行方から目が離せない。

(取材・文/井上健一)