数あるテレビドラマの中でも、安定した人気を誇る刑事ドラマ。事件解決に至るまでのミステリーとサスペンス、その裏に潜む人間ドラマまで、さまざまな要素を盛り込み、幅広い世代が楽しめることが人気の理由だろう。
そのトップを走る「相棒」が一休みしている今期も、「警視庁捜査一課9係」(テレビ朝日系毎週水曜午後9時)、「緊急取調室」(テレビ朝日系毎週木曜午後9時)などが放送され、人気にかげりは見えない。
中でも、他の作品と一線を画した内容で存在感を示しているのが、「CRISIS 公安機動捜査隊特捜班」(フジテレビ系毎週火曜午後9時)と「小さな巨人」(TBS系毎週日曜午後9時)だ。
「CRISIS 公安機動捜査隊特捜班」では、警察庁の秘密部隊“公安機動捜査隊特捜班”が、テロリストや麻薬組織など、国家を揺るがす巨大な犯罪に立ち向かう。「SP 警視庁警備部警護課第四係」(07)、「BORDER」(14)を手掛けた金城一紀が原案と脚本を担当。構想5年超という入魂の作品だ。見る者の善悪の概念を揺さぶるような濃密なドラマに加え、最近の刑事ドラマには珍しいハードなアクションが見もの。
当サイトに掲載されている主演の小栗旬のインタビューによると、本作のために1年以上掛けて「カリ・シラット」という武術を学んだとのこと。その成果が、マンションからの飛び降りやスピーディーな格闘シーンなど、見応えのあるアクションに結実。現代社会に一石を投じる重厚なドラマはもちろんのこと、刑事アクションという観点からも注目したいドラマだ。
一方、「小さな巨人」は、事件の捜査も行うが、物語の主軸は警視庁VS所轄刑事の対立という警察内部の人間ドラマ。俳優陣の熱演もあり、見る者をぐいぐい引っ張っていく熱気にあふれている。
中心スタッフの顔ぶれからも明らかなように、大ヒットした「半沢直樹」(13)や「下町ロケット」(15)の流れをくむ作品でもある。弱者が強者に立ち向かう構図、出世を巡る争い、テンション高めの熱い人間ドラマなど、随所に「半沢直樹」譲りの要素がちりばめられている。その辺りを念頭に置くと、刑事物というよりも、ビジネス物のようにも見えてくる。
ただし、これまでは池井戸潤の小説が原作だったが、今回は原作なしのオリジナル作品。これまで脚本を担当してきた八津弘幸が“脚本協力”という一歩引いた立場に回っている点を併せて考えると、作り手が新たな挑戦をしているようにも見える。その意欲的な取り組みの今後の行方が気になるところだ。
それぞれ、小栗、西島秀俊(「CRISIS ~」)、長谷川博己、岡田将生(「小さな巨人」)といった人気俳優を起用しているが、その人気に頼った作品でないことは、力の入ったドラマ本編を見れば明らか。刑事ドラマとしてはある意味、異端とも言えるが、こういった変化球が生まれるのも、刑事ドラマが人気ジャンルたる証だろう。
「太陽にほえろ!」(72~86)、「踊る大捜査線」(97)といった作品を引き合いに出すまでもなく、名作は常に挑戦の中から生まれる。意欲的な2作品の行方を、最後までじっくり見守りたい。(井上健一)