朝ドラ「ひよっこ」の、記憶喪失で行方不明になった夫の実(沢村一樹)が別の女性(菅野美穂)と暮らす家を妻の美代子(木村佳乃)が訪ねる…というシーンを見ながら、名匠ビットリオ・デ・シーカが監督し、名優ソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニが共演したある映画を思い出した。
というわけで、今週はその『ひまわり』(70)を紹介しよう。
この映画は、イタリアのナポリを舞台に、第二次世界大戦によって引き裂かれた一組の夫婦の悲劇を描いている。とはいえ、前半はローレンとマストロヤンニが演じる新婚夫婦のやり取りが明るくコミカルに展開されるものだから、またお得意のパターンかと思わせる。
というのも、デ・シーカ監督、ローレン、マストロヤンニの名トリオは、この映画の前に『昨日・今日・明日』(63)と『あゝ結婚』(64)という艶笑コメディーの傑作を生み出しているからだ。
ところが、夫のアントニオがロシア戦線に出征し、行方不明となる後半は、一転して悲劇へと変わる。この喜劇から悲劇への鮮やかな変転が悲しみを倍加させるのだ。
デ・シーカ監督は『靴みがき』(46)『自転車泥棒』(48)などで、イタリアンネオリアリズムの先駆者として知られているが、その一方、コメディー映画も数多く手掛けた人。だからこそこうした芸当ができたのだろう。
妻のジョバンナは夫を捜しにロシアに赴くが、戦火で一時、記憶喪失となったアントニオは、命を救ってくれたマーシャ(リュドミラ・サベリーエワ)と一緒に暮らし、子までなした仲になっていた。新たな生活を送る夫の姿を目の当たりにし、マーシャが心底からアントニオを愛していることを知ったジョバンナは、夫を返してくれとは言い出せない。そんな3人の関係を見ていると何とも切なくなる。
絶望したジョバンナは、思わず外に出てひまわりが咲き乱れる畑の中をさまよう。その時、ヘンリー・マンシーニ作曲のテーマ曲がまさに絶妙のタイミングで流れ始めて…。ずるいと思いながらも、涙せずにはいられない名シーンだ。やがて傷心のジョバンナは帰国し、アントニオはマーシャに促され、元妻に会うためにイタリアに向かうのだが…。
彼らは誰も悪くない。悪いのは彼らの人生を狂わせた戦争なのだということを強烈に感じさせる反戦、メロドラマの傑作。ローレンがイタリア女性の情の深さとたくましさを見事に体現している。
「ひよっこ」の脚本を書いている岡田惠和は、恐らくこの『ひまわり』から設定を借りたと思われるが、再会後の実と美代子の関係をどう描いていくのだろうか。朝ドラだけにハッピーエンドが望ましいのだが…。(田中雄二)