■本当のヒロインは登場しない映画
『ボーイズ・オン・ザ・ラン』が映画化されたのは2010年。監督は劇団「ポツドール」を主催する三浦大輔で、主人公の田西は、銀杏BOYSの峯田和伸が演じた。もともと原作の大ファンだった峯田和伸が、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」という曲を書き下ろし、それが主題歌になっている。
この映画は114分の作品なのだが、その長さで原作のすべてを描くのは当然ムリ。ということで、映画は原作の前半、植村ちはるが登場する部分だけで構成されている。つまり、本当のヒロインは出てこない作品なのだ。そうなると、主人公の田西に希望の光が差すことはなく、ある意味、救いのないエンディングになっている。ただ、それが逆にエッジの効いたテイストになっていて、青春の残酷さが痛いほど感じられる作品になっているのも事実。これはこれで完結されたひとつの作品になっていると思う。
もうひとつの大きな変更点は、田西の年齢が29歳になっていること。たった2歳の違いだが、20代の2歳ということもあって、人によってはかなり印象が違って感じられるかもしれない。あと、田西が大手玩具メーカーの営業マン・青山と決闘をする前に歌う歌が、長渕剛の「Captain of the ship」ではなく、岡村孝子の「夢をあきらめないで」になっている。ドラマでは原作通りに長渕剛の歌を使っているので、許可の問題ではなく、意図があっての変更かもしれない。いずれにしても、原作より田西の印象はスマートになっている。
ちはるを演じていたのは黒川芽以。下ネタも多い内容だが、頑張って演じていたと思う。映画版のちはるには、タバコを吸ったり、飲んでいる時に田西の太ももに手を乗せたりする演出が加えられているのだが、そのことでちはるのキャラクターはハッキリしていた。青山たちと飲みに行ったあとにバッテングセンターへ行くシーンや、田西とラブホテルへ行った時に一緒にお風呂に入るシーン、そのあとに美人局に絡まれるシーンなどがすべてカットされていて、ちはるが田西と付き合いたいと思った流れは唐突なのだが、それもむしろちはるの気持ちの軽さを際立たせていると言えなくもない。
青山を演じていたのは松田龍平で、こちらも敵役としての役割しか与えられていないので、さわやかさなどは皆無のハッキリとしたイヤな奴になっている。ちはるの隣の部屋に住んでいるソープ嬢・しほを演じたのはYOU。気だるさは増していたが、しほのキャラクターはほぼ原作通りだった。