年末年始は、自宅でゆっくり過ごす人も多いだろう。そんな中、まだ見ていないという人にお薦めしたいのがNetflixで配信中のドラマ「愛の不時着」だ。韓国の女性と北朝鮮の将校との間に芽生えたロマンスを、ヒョンビンとソン・イェジンという2大スターが演じた本作は、「2020年 日本で最も話題になった作品TOP10」(Netflix発表)で、見事1位を獲得。今年の「ユーキャン 新語・流行語大賞」トップ10にも選出された。 そんな本作が、韓流ドラマのファンのみならず、「普段、韓国ドラマはあまり見ない」という層まで引きつけた理由は一体何なのか、その要因を探ってみた。
本作は、パラグライダー中に思わぬ事故に巻き込まれ、北朝鮮に不時着してしまった韓国の財閥令嬢ユン・セリ(ソン・イェジン)と、そこで出会った堅物の将校リ・ジョンヒョク(ヒョンビン)の物語だ。
驚くのは、ラブストーリーでありながら、ラブシーンが非常に少ない、ということ。ベッドシーンに至っては皆無だ(添い寝はあるが…)。キスシーンも全16話の中で、5回ほどしかなく、最初のキスはハプニングによるものだった。
それでも、胸が締め付けられるほど視聴者が夢中になったのは、主人公2人の関係性が、打算的な恋愛に疲れた今の女性たちが、無意識に求める“純愛”だったからではなかろうか。
劇中では、食事が愛情表現の一つにもなっている。例えば、2話では、空腹のセリのために、ジョンヒョクがトウモロコシの粉を使った麺料理「ククス」を振る舞うシーンが登場する。
最初は、警戒心から口をつけなかったセリだが、その後、ジョンヒョクと、彼が率いる第5中隊員たちと打ち解けていくと、持ち前のわがままぶりを発揮。「私は1日2食、お肉を食べるの」と食事に注文を付け始める。そんなセリの要望に応えるべく、ジョンヒョクは塩漬けされた肉を取り出して焼いてやるのだった。
4話では、ジョンヒョクが買ってきた貝を、隊員たちと一緒に庭で焼いて食べる場面があった。最初は「ブイヤベース以外の貝料理は食べたことがなくて…」と乗り気でなかったセリだが、貝と、そこに注いだ焼酎の味に夢中になると、ジョンヒョクもうれしそうにほほ笑んだ。
その後も、市場でコーヒー豆を手に入れ、自宅で焙煎してコーヒーを入れるなど、かいがいしくセリの世話をするジョンヒョク。セリのために、闇市で韓国製の化粧品、シャンプー、下着まで調達してくるなど、世話好きな一面は当初からあったが、見知らぬ土地で不安を抱えたセリに見せる優しさは、何もかもを包み込んでくれる、保護者の愛にも似ている。
そして、ジョンヒョクの魅力を語る上で外せないのが、その行動力だ。セリがジョンヒョクに内緒で、パラグライダーで韓国に帰ろうとする4話でのシーン。セリを追って山まで来たジョンヒョクは、セリの使っていたトランシーバーがオンになっていたことから、「10分以内に偵察隊がここに来る」と、緊急事態であることを察知すると、混乱するセリを抱きかかえて一気に崖から飛び降りる。
いちかばちかの行動だったが、パラシュートは無事に開く。「本当は感謝しているの…」とつぶやくセリに、「分かっている」と、穏やかに応えるジョンヒョクの優しさに胸キュン必至のシーンだ。
6話では、帰国を目指し、空港に向かうセリが乗った車を、武装トラックが襲う。そこにひそかにバイクで並走していたジョンヒョクが登場。武装トラックと激しい銃撃戦を繰り広げたジョンヒョクは、セリをかばって自身が撃たれてしまう…。
「僕の見えるところにいてくれ」「安全だ、見えている間は」とセリに伝えていたジョンヒョクの、まさに有言実行ともいえる名シーンが胸を打つ。それと同時に、前日のピクニックに、ジョンヒョクが遅れて参加したのは、万が一に備え、バイクの補強と銃の調達を行っていたためだったことも判明。その冷静な判断力もまた魅力の一つだ。
この「何が何でも彼女を守る」というジョンヒョクの徹底した行動に、SNS上には、「涙腺崩壊」などと感動する女性ファンの声が続出。見返りを求めることなく、まるで保護者のようにセリを守リ続けるジョンヒョクの姿に、男女の恋愛を超えた、もっと深い愛情が垣間見えるのだろう。
家族の愛情に飢え、孤独の中で生きてきたセリにとっては、初めて知った“守られる愛”。やがて、その信頼感は、「自分も彼のために何かをしてあげたい」という強い思いにつながっていく。
何はともあれ、劇中のジョンヒョクが女性たちの心をわしづかみにしたのは間違いない。SNS上には、「愛の不時着を見て以来、『どうしてわが家にはリ・ジョンヒョクがいないのだ』という理不尽な思いに駆られる…」、「最近夫に腹を立てると『ジョンヒョクは絶対にそんなことしないよ!』と言ってしまう」といった主婦のボヤきが散見されるほどだ。
10話以降の「ソウル篇」でも、互いが互いを守るために、文字通り、命を張る2人。何度見ても、国境を超えた愛の行方に心を揺さぶられる。(山中京子)