新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、全国の映画館や劇場は2月以降、次々と休業を余儀なくされ、公開予定だったほとんどの映画が公開延期か中止に追い込まれた。
5月以降、映画館や劇場は営業を再開。当初は感染を抑えるため、入場者を50パーセントに制限していたが、今は、食べ物を販売しないことなど、一定の条件のもと100パーセントの開放も認められている。それでも客足は減ったままだ。
そんな中、吾峠呼世晴の漫画をアニメ映画化し、10月16日に公開された『劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編』が、興行収入324億円を突破し、ジブリ作品『千と千尋の神隠し』(01・316億8000万円)の記録を19年ぶりに塗り替えて、国内の映画歴代興行収入ランキング1位に輝いた。とは言え、これはあくまでも例外中の例外。今年の映画と言えば『鬼滅の刃』だけが話題となる“全集中現象”は手放しでは喜べない。
また、世界的にも映画の製作や流通がストップした。今年はアカデミー賞で韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が作品賞ほかを受賞し、映画のさらなる国際交流に期待が高まっただけに、同じ年にこうした出来事が起きたことは、皮肉としか言いようがない。
そんな悪条件下で、2020年に“頑張って公開された映画”を10本ずつ挙げてみる。洋画の大作が公開されなかった分、渋い邦画が印象に残った。
【洋画】
●最近は珍しくなった骨太な男たちの熱血ドラマ『フォードVSフェラーリ』
●クリント・イーストウッド通算40本目の監督作品『リチャード・ジュエル』
●脚本が見事な群像ミステリー『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』
●全編を通してワンカットに見える戦争映画『1917 命をかけた伝令』
●テレビ局内のセクハラ騒動を赤裸々に描いた『スキャンダル』
●ジュディ・ガーランドに成り切ったレニー・ゼルウィガーを見るための『ジュディ 虹の彼方に』
●音は感動を伝える。映画体験の半分は音だ『ようこそ映画音響の世界へ』
●理解するのではなく感じる映画『TENET テネット』
●ハリウッド映画とは一線を画する、新たな映画『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』
●年末年始、唯一の洋画アクション大作『ワンダーウーマン1984』
【邦画】
●根も葉もある絵空事の集大成。大林宣彦監督の遺作『海辺の映画館 キネマの玉手箱』
●大人たちの“遊び心”を刺激する『一度も撃ってません』
●摩訶(まか)不思議な長尺恋愛映画『本気のしるし』
●“現代的な江戸の人情話”に仕上げた『みをつくし料理帖』
●ベネチア映画祭で銀獅子賞を受賞した『スパイの妻』
●ストリップ劇場を舞台にしたラブストーリー『彼女は夢で踊る』
●ヒロインを中心としたユニークな群像劇1『おらおらでひとりいぐも』
●ヒロインを中心としたユニークな群像劇2『ホテルローヤル』
●複雑なクライムサスペンスを見事に99分でまとめた『サイレント・トーキョー』
●棋士とAIの勝負を見事な青春物語として仕上げた新人監督『AWAKE』
さて、来年は、シリーズ最新作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』のように、遅ればせながら公開が決定したものもあるが、スティーブン・スピルバーグ監督がリメークしたミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』や、トム・クルーズ主演の大ヒット作の34年ぶりの続編『トップガン マーヴェリック』のように、何度も公開延期が繰り返された揚げ句、いまだに公開日が未定のものも多い。これらの公開も、東京オリンピック・パラリンピックの開催同様、今後の状況によってはどうなるか分からない。一刻も早くコロナ禍が終息し、再び安心して映画館で映画が見られる日がくることを願わずにはいられない。(田中雄二)