羽柴秀吉役の佐々木蔵之介

 ついに最終回「本能寺の変」(2月7日放送予定)を残すのみとなったNHKの大河ドラマ「麒麟がくる」。1月31日放送の第四十三回「闇に光る樹」は、徳川家康(風間俊介)を接待する席で、織田信長(染谷将太)から理不尽に責められた供応役の明智光秀(長谷川博己)の苦悶の表情で幕切れとなり、いよいよ本能寺の変に向け、光秀の思いとともに、視聴者の期待もMAXに高まってきたところだろう。

 本能寺の変については、もはや最終回を待つ以外にないが、もう一つ気になるのが、羽柴秀吉(佐々木蔵之介)の動きだ。ご存じの通り、本能寺の変で信長を討った光秀は、中国地方の毛利攻めから急きょ引き返してきた秀吉との山崎の戦いに敗れ、落ち延びる途中で命を落とす…ということが史実として伝わっている。つまり、普通に考えれば秀吉も、光秀の最期に大きくかかわってくるはずだ。その意味で振り返っておきたいのが、第四十三回の行動だ。

 この回、秀吉は、安土城で丹波平定の報告を終えた光秀を廊下で呼び止め、「信長様が呼んでいる」と伝えた後、一緒にいた細川藤孝(眞島秀和)に「昨日お話しした件で、続きを少し…」と声を掛ける。人気のない部屋に藤孝を誘った秀吉が口にしたのは、「やはりわしは、帝のご譲位はいかがなものかと思います。いかに上様(=信長)でも、いささかやり過ぎなのではありませんか。近衛前久(本郷奏多)様などは、何とおおせになっておられますか?」との言葉。

 これに対して、藤孝から「むろん、譲位の議は不承知だ」との回答を得ると、「でございましょう?」と賛同する様子を見せ、「近頃、上様は何か焦っておられる。そう思われませぬか?」と続ける。

 だが、演じる佐々木が公式サイトのインタビューなどで語っている通り、秀吉は「帝や公方様であれ、使えるなら残すが、不要なら捨てるという思考」の持ち主。だとすると、「帝のご譲位はいかがなものか」との発言にはやや違和感を覚える。

 つまりこれは、藤孝の真意を聞き出すための鎌かけ、と見るべきではないだろうか。佐々木も「今週、秀吉は信長の行動について、その細川藤孝に探りを入れていました」と公式サイトのインタビューで語っている。

 とはいえ、そこには「何のために?」という疑問が残る。藤孝は光秀の盟友であることから、秀吉にとっては、いつもの情報収集だったのかもしれない。もちろん、この時点で光秀が謀反を起こすとも考えていないはず。ただ、秀吉と藤孝の間のこのやり取りが、最終回の伏線になることは考えられる。具体的には、本能寺の変後、藤孝が光秀の援軍要請に応じなかったことが、山崎の戦いでの敗因の一つと言われており、この史実に絡んでくる可能性もあるのではないか。

 また、佐々木は以前のインタビューで第四十一回、「平らかな世とは?」と光秀から問われた秀吉が、「昔のわしのような貧乏人がおらぬ世だ」と答えたシーンについて、「物語のキーになるシーンだったのでは」とも語っている。この言葉も、物語の行方を示唆しているのだろうか?

 そう考えると、山崎の戦いがどんなふうに描かれ、秀吉が光秀の最期にどんなふうに関わってくるのかも気になるところ。それとも、本能寺の変と併せて、今までにない展開を見せるのか。秀吉の活躍にも期待しつつ、最終回を楽しみに待ちたいと思う。(井上健一)