アイドル戦国時代と言われる今、トップに君臨するのはAKB48だ。「So long!」では、10作連続・発売1週目でミリオンを突破するという偉業を達成。また、オリコンからは3月、史上最速でシングル通算2000万枚を超えたことが発表され、社会現象と言うべき状況となっている。
昨年12月にはAKB48を“宗教”とみなして、その魅力を考察した『前田敦子はキリストを超えた――〈宗教〉としてのAKB48』(ちくま新書)が刊行され話題を集めた。いったい、彼女たちの何がそこまで人々を熱狂させるのか。著者で社会学者の濱野智史さんに聞いた。
AKB48は“ものすごく真剣にハマれるゲーム”
濱野 智史(著)
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――著書『前田敦子はキリストを超えた』は「AKB48は現代の宗教システムとして優れている」という内容で大きな反響を呼びました。
本では限りなく「宗教」に近いものとしてアイドルにハマる、という経験の構造を切り取ろうとしたのですが、それは宗教という言葉を使わずに表現することもできます。ひとことで言えば、AKB48は“ものすごく真剣にハマれる育成ゲーム”なんですね。普通ゲームというと、どんなにハマっても所詮は虚構の世界に過ぎなくて、現実逃避なり暇つぶしなりの対象というニュアンスしか持ちません。しかし、AKB48というのは、生身の人間相手に展開される、「いかに推しメンの人気の序列を高めるのか」という育成ゲームになっている。
例えば総選挙では、たった数票の違いでひとりの女の子の人生が変わってしまう。あまりにも現実に食い込んでいるので、ゲームといってもそれはお遊び感覚にはならなくて、プレイヤーであるヲタ(※ファンの意)としても真剣に取り組まざるを得ない。そんなタイプのゲームなのです。
――AKB48のゲーム性を成り立たせているのは、具体的にどの要素でしょうか。
「劇場」「握手会」「総選挙」の三本柱に整理できます。
まず劇場ですが、これは『AKB48劇場』でほぼ毎日行われている公演のことです。この劇場公演で、いかに目当ての子を見つけて、声をかけてレスをもらう(目線が合う・指を指してくれる等を指す)というのは非常に強烈なゲームになっているんですね。大きな声でメンバーの名前を「コール」すると、すごく表情がよくなってパフォーマンスも輝いてくるし、レスもくれるのでめちゃくちゃ手応えが大きい。だから他のヲタに負けじと声を張り上げてしまう(笑)。
もちろんAKB48以外の地下アイドルでも定期公演はザラにありますが、持ち歌も数曲で持ち時間は30分、会場も狭いのでメンバーは8人ほど……というケースも珍しくありません。しかしAKB48には専用の劇場と何百曲もの公演曲があり、一度に16人ものメンバーがステージに上がって、たっぷり2時間、毎日公演できる。しかも定員が250人程度の狭い劇場だから、すごく近い距離で少女たちの全力のパフォーマンスが見られる。これは非常に贅沢な環境です。こんなものが3000円で見られていいのかというくらい素晴らしいものです。
もちろん、いまではAKB48の人気がすごく上がってしまったので、特に人気のメンバーが出演する公演は回数も少ないし倍率も高く、なかなか劇場で会いに行くことはできません。でも、研究生の公演ならわりと倍率も低くて、月1回くらいのペースで見ることができる。研究生の公演というから見どころがないのかといえば、そんなことは全くないんですね。先輩メンバーがやってきた名曲の数々を研究生たちが必死になぞってパフォーマンスをするのを見ていると、AKB48の「伝統」が着実に受け継がれているのがわかります。AKB48の歴史と資産が、新たに入ってくるメンバーたちの魅力を引き出していくんです。
また握手会に関していえば、よく“AKB商法”と揶揄されますが、CD1枚でメンバーと10秒喋れる仕組みになっています。でもそんなの何が楽しいんだと思うじゃないですか。僕も自分で行く前までは「どうせオタクの童貞が女の子の手を握るだけで満足してるんだろ」と思っていたんですが、行ってみたら全然違って、とてつもなく面白いゲームなんですね。要は握手会のゲーム性というのは、たった10秒間の間でどれだけ良対応を引き出すかが問われる「コミュ(ニケーション)力の格闘ゲーム」とでもいうべきものなんですね。むしろたった10秒という制約があるからこそゲームとして成立している。
握手会自体は別にAKB48の独創でもなんでもなく、他の地下アイドルも普通に行っていますが、売れてからも継続するのは難しいんですよね。例えば『ももいろクローバーZ』だと、ブレイク以後は握手会の回数は減らさざるを得ない。たった5人では限界がありますよね。一方、AKBグループは人数が多いこともあって、毎週のように日本の各地で握手会が行われています。そして誰もが知っているAKB48の有名メンバーとも普通に握手することができる。ここが魅力の1つですね。
劇場や握手会といった「現場」が重要であるということは、AKB48の運営もよくわかっていて、だからどれだけ売れたとしても、「会いに行けるアイドル」であることを決してやめようとしていない。それがAKB48の価値の源泉だと分かっているからですよね。ヲタとしても、そこがブレない限りは信頼できるな、と。