――新しい世代として期待されているメンバーはいますか。

ヲタの間では、「現在の人気メンバーの後継者として相応しいのは誰か」という切り口での議論がなされています。例えば、「麻里子様(篠田麻里子)、こじはる(小嶋陽菜)の後継者には、若くて背の高い10期生の加藤玲奈ちゃんが適任では?」といった具合です。アニメ『AKB0048』は初代のメンバーを「襲名」するという設定なんですが、それと同じように、似ているメンバーを当てはめたりするんですよね。たとえばぱるるは今、2代目あっちゃんのような雰囲気がありますし。実際どうなるかは別にして、こういうことをヲタ同士で話していること自体が楽しいんですよね。向こう2、3年は、「誰が初代メンバーを襲名するのか」という流れで人気が続くかもしれませんね。

――最後に、AKB48は今後どうなっていくと思いますか。

今回はAKB48のシステムのことを中心にお話しましたが、楽曲にもヲタの心を掴む要素があるんですよ。さきほど「AKB48は巨大な内輪ネタだ」といいましたが、AKB48のシングル曲は、内輪事情を知るとより感動できるつくりになっているんです。

例えば「GIVE ME FIVE!」という楽曲は普通に聞けば卒業ソングですが、実は卒業するあっちゃんに向けてつくられた曲なんですよね。それが分かると俄然感情移入してめちゃくちゃ泣ける曲に変貌する。秋元さんの歌詞がうまいのは、そこでわざとAKB48のことをそのまま描いた曲は作らないんですよね。

卒業とか恋愛とか、ごく普通のシチュエーションを描いた歌詞として聞けるような歌詞になっているんだけど、実はそれがAKB48の内情を歌った曲にもなっているという、文脈の「重ね掛け」が巧妙になされているのがポイントなんです。秋元さんは、そういう歌詞の作り方が天才的にうまい。それは一見するとわかりにくいんですよ。表面上はすごくベタな歌詞だから、いわゆる「分かりやすい天才的な歌詞」という風には見えない。でもAKB48にハマればハマるほど「この歌詞はこういうことを歌っていたのか!」とどんどん歌詞の解釈が変化して成長していく。

ここまでお話したシステムと楽曲の力によって、AKB48は熱狂的なヲタを増やしつつ、いわゆる「国民的アイドル」にもなっていったわけですけど、僕としてはまだまだAKB48にハマる余地を持った潜在的な層はたくさんいると思うんですよね。今の30代以上だと、AKB48が好き=アイドルヲタ=特殊な人たちという認識になるかもしれませんが、10代から20代前半の世代に区切れば、アイドルヲタって別に全然変なことではないんですよ。みんなごく普通にAKB48なりのアイドルを推している。AKB48がまさにそうですが、アイドルは今すごく多様性が高くていろんなメンバーやグループがあるので、それまでの色々なサブカルチャーの資源をむしろ抱え込める「容れ物」になっている。アイドルは色々なサブカルチャーを繋ぐプラットフォームのような存在になっているといっても過言ではないんです。

その中でもAKB48は規模が大きくなりすぎたことで、ヲタとメンバーとの距離が離れてしまったという問題は確かにあります。もちろん運営もそれは問題だと認識していて、メンバーが「ぐぐたす」(※Google+のこと)を活用してファンと交流し、距離を縮めるなどの施策を打っています。情報技術を使って、今後どれだけ「距離を狭める」ということができるのかは個人的には注目したいですね。

僕としては、2000年代に登場したAKB48とニコニコ動画的なものが今サブカルチャーを席巻するようになったわけですけど、この2つがさらに融合して、エンタメ以外の世界にもニコ動や地下アイドルの文法が浸透していくのではないかと期待しています。あらゆるものにユーザーがコメントをつけて、関与できて、応援できて、育成できるというゲーム性は、それだけ強力なんだと思うんですよね。この流れが逆戻りすることは、もうないのでは?


アイドルグループにとって、人気メンバーの卒業は痛手だ。また、世代交代にはファンが離れるというリスクがある。それはAKB48も例外ではないだろう。ただ、それすらもゲームとして機能し、ヲタを白熱させる理由のひとつになっている。AKB48の勢いは、まだまだ持続すると言えそうだ。

 

濱野智史(はまのさとし)
社会学者、批評家、株式会社日本技芸リサーチャー。早稲田大学/千葉商科大学で非常勤講師も務める。専門は情報社会論で、著作に『アーキテクチャの生態系』(NTT出版)。AKB48関連では、『を超えた――〈宗教〉としてのAKB48』や、小林よしのり・宇野常寛らとの共著『AKB48白熱論争』(幻冬舎新書)がある。

 

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