映像表現における「“アニメ”ならではの魅力」とは

――大童先生は映像表現そのものがお好きだと思いますが、映像表現においてアニメならではの魅力とは何だとお考えですか。

大童:突拍子もない表現ができることもありますが、見せたい情報を極限までコントロール可能なのがアニメーションの強みだと思います。

実写だと、画角やロケ場所の制約など様々な条件によって見せたいものを全て写せるとは限りませんし、逆にディテールが細かすぎて情報過多になることもあります。

でも、アニメは情報を省略することができます。

3DCGと実写を融合させた作品も、実写に合わせるために情報量を多くするのが一般的だと思います。しかし、2Dの手描きアニメーションは情報をコントロールして見せたいものを抽出できる、それは特撮映画とも違う点だと思います。

©2020 大童澄瞳・小学館/「映像研」製作委員会

――水崎氏の「アニメーターは役者なんだ」という素晴らしい台詞がありますが、大童先生がアニメーターを役者として意識し始めるきっかけはなんだったのですか。

大童:『エウレカセブン』ですね。26話「モーニング・グローリー」で、現実にはありえないシチュエーションなのにすごく細やかな動きが描かれていて、それがシーンに説得力を与えていて。それを観て「あ、これは芝居なんだ」と思ったんです。

それから、これは今まであまり言っていないんですが、『王立宇宙軍 オネアミスの翼』のあるシーンにもすごい衝撃を受けました。

奇妙な形のプロペラが出てくるんですが、真っ直ぐになっておらず途中で折れ曲がったような複雑な形状をしているんです。普通に描くだけでも大変なのに、それが回転しているシーンを手で描いた人がいるのかと驚きました。

のちにそのシーンは3DCGのトレースなんだと知りましたが、あの年代にわざわざ3DCGを使ってまであの奇妙な形の羽を画面に出そうとしたこと自体が凄いですよね。こういった出来事からも、一層アニメーターの仕事を意識するようになりました。

大童澄瞳先生

――そうしたことに気が付いて、他のアニメも観直して様々な芝居を発見していったのですね。

大童:そうですね。『エウレカセブン』より先に観ていた『未来少年コナン』も改めて観たら、この作品にもすごい芝居がたくさんあることに気が付きました。15話「荒地」でヒロインのラナが主人公のコナンをビンタするシーンがあるんですが、その動きのコマの枚数とコナンの表情がすごいんです。

「日常芝居」って言い方がありますよね。例えばお茶を飲む時、湯呑を口に近づける時に、茶托を一緒に持ち上げるのか、湯呑を持ってから茶托を添えるのか等、そういう細かい動作を描きたがる人がいて、そういうこだわりを観て楽しんでいる人もいるというのは凄いことだと思うんです。

©2020 大童澄瞳・小学館/「映像研」製作委員会

好きなことを語り始めると止まらない大童先生のインタビューは大変楽しい一時だった。浅草や水崎のような情熱を持った反面、金森のように周囲を冷静に振り返ることにも長けている印象を受け、「なるほど、あの3人の生みの親だな」と納得した。

『映像研には手を出すな!』は、アニメ制作の楽しさと奥深さをわかりやすく伝えてくれる一方、もの作りにおけるマネージメントやプロデュースの大切さも描かれており、アニメ制作に限らず、広く一般に仕事する上で重要なこともたくさん描かれる作品なので、ぜひ多くの人に観ていただきたい。

【アニメ『映像研には手を出すな!』】
NHK総合テレビにて毎週日曜24:10~放送(関西地方は24:45~)

【原作『映像研には手を出すな!』】
小学館ビックコミックスにて『映像研には手を出すな!』1〜4巻発売中