佐々木「演じている私も勝手に涙が出てくることがあった」

佐々木「私自身がこの夫婦のこの先が気になる、と思ったことも大きいですね(笑)」

玉山「ただ、プロデューサーの方々はその意外とも思えるキャスティングにある程度の勝算があって話を振ってきているわけだから、結局は本人がその役と向き合えるかどうかの問題。

僕もある種の怖さも味わいながら、自分が歯車になることで作品が少しでもよくなればいいな、という想いでやっているし、観てくださる方にいい意味で驚きを与えられればいいなと思っています」

とは言うもの、なかなかデリケートな問題に踏み込んでいるし、演じながら精神的に辛い領域に追い込まれたときもあったに違いない。

何しろ、眩しく晴れた日になると抗えない衝動を覚える彩は、赤いドレスに身を包み、不特定多数の男性と肉体関係を持ってしまうのだから。

佐々木「衝動に駆られているときの彩は挙動不審と言うか、ひとつの感情が続かないんです。

カウンセリングの1シーンの中だけでも、急に泣いたと思ったら怒ったり笑ったり、揺れ動く感情の幅が大きくて。

演じている私も勝手に涙が出てくることがあったし、自分が思ってもいなかった行動に出ることもありました。それぐらい毎日感じることが違ったから、明日はこういうふうにしようというプランも立てられなくて。

それこそ彩になっていっているのかもしれないと思って、自分でも少し怖かったです(笑)」

一方、玉山が演じた信夫は、妻の彩を心から愛し、大切に思っている。どんな過酷な状況に追い込まれても笑顔を絶やさず、どんな残酷な事実を突きつけられても、妻に対する愛が揺るがない誠実な男性だ。

玉山「日本の男性には理解しがたい恋愛観が描かれた台本だったし、僕にも見えない部分がたくさんあったので、野島さんと食事をさせていただいたときに、野島さんが話す一語一句を聞き逃さないようにしていたんです。

でも、実際に信夫を体感してからじゃないと見えないこともたくさんあるんだなと気付いたので、現場では信夫でいることに集中し、彩の顔を見て思ったこと、感じたことを素直に出していくようにしました。

実際、彩が僕に注いでくれる愛情がすごく心地よかったり、希ちゃんの表情にほっこりすることもあったので、彼女に引き出されているところもたくさんあるし、彼女の表情を見たり、彼女の声を聞いて、自分から何が出てくるのかを僕自身、楽しみながら演じているところがありましたね」

佐々木「でも、それだけに、彩が不特定多数の男性と肉体関係を持っていることを知ったときの信ちゃんの衝撃や悲しみ、葛藤を思ったときは切なくなりました。

しかも、彩本人の口からその事実を聞かされるのですからね。大人なら普通は隠すのが優しさだと思うけど、彼女は隠して嘘をついている自分が辛いから言ってしまう。

それで自分だけすっきりしているところが、ちょっと子供っぽいと思いました」

玉山「3話目ぐらいから笑顔の下に隠れた“信夫のある過去”が明らかになって…僕はそこにすごく共感できました」

玉山「でも、それはほんの序章でしかなくて。その先のドラマはそんなものじゃない」

佐々木「すごいことになっちゃっています(笑)」

玉山「3話目ぐらいから笑顔の下に隠れた“信夫のある過去”が明らかになって、物事を先送りにしていたり、自分の気持ちを押し殺すことでその場をうまく保とうとする彼の思考が分かってくる。

僕はそこにすごく共感できました。

誰だって子供のときに、自分がワガママを言わなければお父さんとお母さんは喧嘩しないということに気づいて、我慢したことがあると思うけれど、僕もその記憶がちょっとだけ残っていて。

信夫の場合はその感覚がもっと強いから、自分にも周りに期待しなくなっていったと思うんです」

いったい、この夫婦の未来にはどんな試練と結末が待ち受けているというのだろうか?

玉山「彩がその病気になったことで、この夫婦はもがき苦しむわけです。

でも、それを俯瞰すると、この夫婦は自分たちで見えない敵を作って振り回されているだけで、ふたりの愛情は何も変わらないような気もする。

それこそ、これは僕の感覚ですけど、もしかしたら彩の“性嗜好障害”さえもいとわないぐらいふたりの愛情は深いのかもしれない。

そういう野島さんの文学も入っています。シンプルに言うと、そういうことだと思いますね」