優しい夫の愛情を一身に感じながら、“まぶしく晴れた日”には抵抗しがたい衝動から不特定多数の男性と肉体関係を持ってしまう彩(佐々木希)。妻の「性嗜好障害」(セックス依存症は俗語)という病気を知り、筆舌に尽くし難い苦悩と向き合う信夫(玉山鉄二)。この新婚夫婦とそれを取り巻く心の闇を抱えた登場人物たちを野島伸司が描く「雨が降ると君は優しい」(9月16日配信スタート、全8話)。主演の2人に、物語や役の捉え方、演じる上での思いなどを聞いた。
-野島伸司さんの脚本を最初に読んだ時の感想や衝撃を教えてください。
玉山 日本の文化の中にいる男性が読むと、理解し難い部分がたくさんあると思います。僕も結婚して子どももいるのでさらに理解しづらく、信夫のキャラクターも含め、見えない部分があまりにも多過ぎました。野島さんとお食事をしながら長時間お話を聞かせていただいたのですが、野島さんの一言一句を聞き逃さないようにと夢中で、目の前に並んでいた料理を一口も食べられなかったんです。このドラマが成功したら、もう1度あのお店に連れて行ってくださいと約束しています(笑)。
佐々木 脚本を読み始めたら次が気になって仕方なくなりました。彩は性嗜好障害という障害を抱えながらとてもピュアで、「ノブちゃんと別れたら死んじゃう」といってしまうほど、夫である信夫への愛がとても大きいキャラクターです。彩の心の動きが複雑に感じましたので、演じることは簡単ではないと思いましたが、そのピュアなところがいとおしいなと思い、やりがいを感じました。
-最初は理解しづらかったキャラクターに、どのように入っていかれましたか。
玉山 実際にクランクインして信夫を体感しないと見えないことがたくさんありました。信夫でいることに集中し、現場で彼女の表情や声のトーンを聞いて感じたことを出しています。彼女に引き出されてどういう信夫が出てくるんだろうって、楽しみにしながらやっていく感じがあります。僕が断ってほかの人が信夫を演じているのを見たら、すごく悔しい思いをしたでしょうね。
佐々木 この病気については病名を聞いたことはありましたが、具体的なことはドラマをきっかけに教えていただいたり、調べたりしました。患者自身の葛藤を、彩の心情を通して少しずつ教えてもらいながら、入っていった気がします。
-妻の性嗜好障害を知った直後にも優しい笑顔を見せる信夫。彩だけでなく、信夫も影がありそうな人物ですね。
玉山 自分さえ我慢すればうまくいくことに対して、自分をアピールしない部分などは、僕も共感できる部分がたくさんあります。信夫はそれがもっと強く、自分にも周りにも期待しない。ただ自分の近くに彩がいて、彩が注いでくれる愛情を感じることで心地良さを感じているんです。
-昼と夜の二つの顔を持つような病気に苦しむ役を演じる上で、佐々木さん自身に葛藤やつらさはありますか。
佐々木 医師のカウンセリングを受けている時の彩は、感情の揺れ動き方がとても大きく、演じていてもよく分からない感情になったりするんです。勝手に涙が出てきたり、自分でこうしようと思っていてもうまくいかなかったり。毎回感じることが異なるので、カウンセリングのシーンは演じていてとてもつらいです。その分、“ノブちゃん”といるシーンの彩を演じる時は、すごく癒やされます(笑)。
-野島伸司さんの作品ならでは現場の雰囲気というのはありますか?
玉山 キャスト、スタッフ、ディレクター、プロデューサー…。皆のクリエーティブな精神がよく出ていると思います。カメラマンも、照明さんも、「僕はこう解釈したのでこう動いてみました」というように、無難にいくのではなくて、皆チャレンジしているというか。僕も非常にかきたてられる部分があります。
佐々木 とてもプロフェッショナルな現場だと思います。例えば、玉山さんがスタッフの皆さんに、役の見え方などを質問された時も、いつもしっかり答えていらっしゃるんです。すごく信頼していますし、“攻めている”という感じで、皆さんが良いものを作るために頑張っていらっしゃるので、私も絶対集中を絶やさないようにしようと思っています。
-お互いにどのような印象を持っていましたか。共演したことによる新たな発見はありましたか。
玉山 希ちゃんは、本当にシンプルにかわいくて、いろいろな女性の憧れなんだろうなと。飾ることなく、自分を大切にされている方という印象でした。共演してみて、気さくですが意志も強く、役とひたむきに向き合っている姿勢がピュアだなという印象を受けました。
佐々木 本をずっと読んでいそうな、そんなイメージを持っていたのですが、とても明るい方です。役の“ノブちゃん”も玉山さんも、ホッとする存在です。それでいてすごくストイックで、役をどう捉えるかを常に考えていらして、いつもものづくりの中心にいらっしゃる方という印象を受けました。
-信夫と彩、2人の関係の見どころを教えてください。
佐々木 信夫の気持ちを考えると、彩の病気を知った時の計り知れない衝撃、悲しさ、いろいろな葛藤などが生じて、すごく切なくなるんです。彩は、うそをついてしまっている自分が嫌で、信夫に話してしまうことですっきりするようなところが子どもっぽいのですが、でもつい、応援してあげたくなるんです。こういうと変かもしれませんが、2人の間には、純愛というか、すてきな太い絆を感じるんです。だからこそ私も、この夫婦のこの先が気になって仕方なく、次の台本が楽しみなほどでした。点と点が次第につながって、後半は驚きの展開になりますので、楽しんでいただきたいです。
玉山 2人は、彩が性嗜好障害でなければ本当に幸せな夫婦。彩はけなげで、男性にとっては理想的な妻だと思うんです。これは僕の感覚なんですが、もしかしたら、その性嗜好障害というものをいとわないほどの愛情の深さが、2人にはあったのかもしれない。自分たちで見えない敵を作って振り回されているけれど、2人の愛情は何も変わらない。そこに野島さんがお感じになった“文学”が入っているんじゃないでしょうか。野島節が全開の作品なので、ぜひご覧ください。
(取材・文/千葉美奈子)
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