笑福亭鶴瓶が毎年行っている「笑福亭鶴瓶落語会」。昨年、一昨年と好評を博した「山名屋浦里」。タモリ氏原案の同作は、中村勘九郎の手により歌舞伎化されるなど話題になった。さて、今年の独演会は?まずは表現者と代表作の関係について話を聞いた。
「少し前に松山千春が飛行機で歌って話題になったでしょ?出発が遅れてイラだつ乗客の空気を和ませたらしいですが、一番イライラしてたのは間違いなく松山千春です(笑)。本人にも電話しましたけど、さすがだなぁと。代表曲がある人でも、実際にあの行動ができる人はあまりいてないと思いますから。代表作という意味では、『山名屋浦里』が僕のそれになってくれたらうれしいし、実際に今年もあの噺をやってほしいとの声も関係者からはあったんです。でも、今年メインになるのは別のネタです。新しい挑戦をしたかったから」
演目は『妾馬(めかうま)』。東京では『八五郎出世』の名で知られる人情噺。笑福亭鶴瓶は昭和の天才喜劇人・藤山寛美の大ファンなのだが、そのエッセンスを落語に盛り込めないかと試行錯誤を繰り返してきた。その挑戦は難しく成立には至らなかったが、今回、純粋におもしろそうと始めた『妾馬』を自分流にアレンジするうちに、その魅力が松竹新喜劇に通じていることに気づく。
「お殿様にさえ歯に衣が着せられない、アホやけど魅力的な町人が主人公なんですけど、ある場面の八五郎がね、寛美先生なんです。自分としてはベタな笑いというものをいままで避けてきたんですけど、この噺でのその手のやりとりがラストの盛り上がりにちゃんとつながるんやなぁと気づけたのが発見でした。この間なんて、江戸時代の噺なのに小学生が笑ってくれて。『山名屋浦里』を作るまでにいろいろともがいた経験が活きている気がするし、落語には終わりがないなぁとも感じています。ただ、僕としてはそのおもしろさが松竹新喜劇の魅力に通じてると思うけど、『全然違う』とか『そもそも落語じゃない』という否定的な意見があってもうれしいです。岡本太郎さんの奥様が言うてたんですけど、賛否両論あってこその表現だと僕も思っていますから」
鶴瓶流松竹新喜劇的落語の出来栄えとは? 『青木先生』などの私落語、『山名屋浦里』に続く代表作がうまれるのか? ある意味で観客のハードルを上げる賛否両論OKの心意気に、落語家笑福亭鶴瓶が『山名屋浦里』でつかんだ手応えと、次のステージに向かっていることを予感せずにはいられない。
笑福亭鶴瓶落語会は10月26日(木)大阪・森ノ宮ピロティホールを皮切りに全国で開催。
取材・文:唐澤和也