撮影:岩田えり

今年4月に逝去した、日本を代表する劇作家・清水邦夫。故・蜷川幸雄とのタッグで知られ『真情あふるる軽薄さ』『わが魂は輝く水なり』など数々の名作を世に送り出してきた巨匠だが、その作品群の中でもとりわけ人気が高いのが『楽屋―流れ去るものはやがてなつかしき―』だ。芝居に魅せられた女優4人のこの会話劇にはこれまで多くの名女優たちが挑んできたが、5月31日、浅草九劇で開幕した『楽屋』は一風変わった『楽屋』だ。出演は伊勢大貴、瀬戸祐介、照井健仁、星元裕月という若手俳優たち。演出は佐藤アツヒロが手掛け、古典的名作がパワフルに生まれ変わっている。

劇場に入ると、そこはいかにもな女優ライトのついた鏡台にアンティーク調の机や椅子、煌びやかなシャンデリアのような装飾がある、西洋風の部屋。舞台はチェーホフの『かもめ』を上演中の劇場の楽屋だが、木馬やタンバリンといった楽屋には似つかわしくないものもチラホラ。その楽屋でハイテンションに騒いでいるのは、伊勢大貴扮する女優Aと、照井健仁扮する女優B。彼女らは実はすでにこの世のものではない存在なのだが、黒ベースに赤の差し色が鮮やかなゴシックテイストのドレスに、ずけずけとした物言いは、イマドキの怖いもの知らずの女子たちのようでもある。AとBが繰り出す劇中劇のセリフもテンポよくスピーディで、古典のとっつきにくさを払拭。伊勢と照井のタッグが佐藤演出版『楽屋』の“色”を明確に打ち出した。

一方で女優Cを演じる瀬戸祐介は、皆が憧れる『かもめ』のヒロイン・ニーナ役を手にしている女優。こちらは逆にクラシックなドレスに、いかにもな大女優然としたふるまい。パンキッシュな死者たちに比べて抑圧的なのが面白い。さらにここに、Cにニーナ役を譲るように迫る若手女優Dがやってきて物語は予期せぬ方向へ……。病的で、何を考えているのかが掴めない怖さがある女優Dは星元裕月。ゴス系の衣裳がとびきり似合う可愛らしさと、たまに発する低い声のアンバランスさがDの不気味さを醸しだしていて、底知れぬ迫力がある。なかなかの当たり役だ。4人の俳優たちが、ことさら女性を演じようとするのではなく、自らの個性の延長線上にある“女優”を作り上げていることで、性別を超え、舞台芸術に魅せられた魂の普遍性が浮かび上がってくる。

演出の佐藤は、「感染症対策としてステージをビニールシートで囲っています。その空間を逆手にとり、<楽屋を覗いている>という演出にもなっています。70分の女優4人の物語をぜひ楽しんで」とコメント。公演は6月13日(日)まで。チケットは発売中。

取材・文:平野祥恵